アレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎とは

私たちの体にはウイルスや細菌に対し外敵をやっつけようとする「免疫」というしくみが備わっています。ところがこの免疫が過剰に働いてしまい、体には悪さをしないはずのダニや花粉などの原因物質(アレルゲン)に対して体が攻撃してしまう結果、種々の症状が起こるのが「アレルギー」です。「アレルギー性鼻炎」はアレルギーが原因で起こる鼻炎で、「鼻汁」「鼻づまり」「くしゃみ」を3大症状とする病気です。近年増加傾向にあり、国民の約40%がかかっているとも言われ、まさに現代の国民病となっています。増加している背景としては生活環境の変化や食生活の変化、ストレスなどの可能性が指摘されています。

アレルギー性鼻炎の原因

アレルゲンとして多いのが「花粉」「ダニ」です。花粉は季節性に飛散しているので「季節性アレルギー性鼻炎」、ダニは1年中存在しているので「通年性アレルギー性鼻炎」といいます。花粉としてはスギ(2-4月)、ヒノキ(3-5月)、ブタクサ(8-9月)が代表的ですが、それ以外には雑草花粉(イネ科、キク科など)でも起こることがあります。ダニは1年中家屋に存在していますが、高温・高湿で繁殖するため特に8-9月に注意が必要です。

アレルギー性鼻炎の診断

現在起こっている症状がアレルギーによるものかどうかを確かめます。問診、診察を行い、鼻汁中のアレルギー細胞(好酸球)の有無や、特定のアレルゲンに対する抗体(血清特異的IgE抗体)の有無を調べることもあります。症状を起こしているアレルゲンが証明されれば確定診断となります。吸入抗原を中心に調べるとよいでしょう。

 

アレルギー性鼻炎の治療

アレルギー性鼻炎の治療でよく行われる「薬物療法」についてご説明します。鼻アレルギー診療ガイドラインでは、「軽症」「中等症」「重症」および、「くしゃみ・鼻漏型」と「鼻閉型」に分類されています。「軽症」~「重症」の違いは併用する薬剤の数ですので、知っておくと良いのは「くしゃみ・鼻漏型」と「鼻閉型」による治療の違いだと思われます。原因別には「季節性(花粉症など)」「通年性(ハウスダスト、ダニ)」に分類されます。

くしゃみ・鼻漏(びろう)型

内服薬や点鼻薬のいずれを用いても良いことになっていますが、まず使用されることが多い代表格が「抗ヒスタミン薬」です。商品名でアレグラ、アレジオン、アレロック・・・と何となく「アレ」という名前が付いているので混同しがちですが、実は薬剤により効果と副作用が異なるので注意が必要です。抗ヒスタミン薬は、効果・眠気・内服方法などにより様々な種類があります。また点鼻ステロイドも有効です。眠気が出にくいこと、鼻づまりを伴う場合にも効果があります。

鼻閉型

鼻閉型のアレルギー性鼻炎には、抗ヒスタミンは効きにくいため、「ロイコトリエン受容体拮抗薬」(モンテルカスト、プランルカスト)や「点鼻ステロイド薬」を使用するとよいでしょう。血管収縮薬と抗ヒスタミンの合剤である「ディレグラ」も鼻閉を伴う鼻炎には使われることが多い薬剤です。1点注意したいのは片側性に鼻閉が起こる鼻中隔側湾(側湾)です。これは鼻中隔という骨が片側に曲がっていることにより起こる鼻閉感ですので基本的には薬は効きません。鼻閉感が片側だけ続く場合にはレントゲンや鼻鏡などで確認してもらうと良いでしょう。

薬物療法

抗ヒスタミン薬

抗ヒスタミン薬には大きく分けて、眠気が出やすいものと出にくいものがあります。運転注意喚起がない薬剤はフェキソフェナジン(アレグラ)、ロラタジン(クラリチン)、デスロラタジン(デザレックス)、ビラスチン(ビラノア)があります。また食事の影響を受けやすい薬としてはフェキソフェナジン(アレグラ)、ビラスチン(ビラノア)があります。また効果や副作用が同程度の薬でも構造の違い(「アミノ基」と「カルボキシル基」)により、効果や副作用に違いが出ることもあります。抗ヒスタミンを選ぶ際のポイントですが、 抗ヒスタミン薬を今まで内服したことがない方や、ドライバー、精密機器取扱の仕事の方は眠気が出にくい薬を選びましょう。その他の選ぶポイントとしては内服回数(1回か2回)、食事の影響を受けるかどうかなどがあります。 抗ヒスタミン薬を選択する際のフローチャートを作成しましたのでよろしければ参考にしてください。

*当院処方薬を中心に記載(効果等につき筆者の主観を含む)

 

 

点鼻ステロイド

点鼻ステロイドには5つの薬があります。点鼻液かパウダーのタイプ、後発品の有無、1日の噴霧回数が異なります。効果はほぼ同等ですので、使用感や回数で使いやすいものを選ぶと良いと思います。

 

ロイコトリエン受容体拮抗薬

ロイコトリエン受容体拮抗薬は、鼻閉を伴うアレルギー性鼻炎に効果的です。鼻炎の他、気管支喘息にも効果があります。そのため気管支喘息がありアレルギー性鼻炎が合併している場合によく使用されます。

舌下免疫療法(スギ・ダニ)

舌下免疫療法は、スギやダニを原料とするエキスから作られた薬で、少量から服用することによって体を慣らし、アレルギーによる症状を和らげる治療です。アレルギー症状の有無に関わらず毎日長期間(3~5年間)にわたり継続して服用する必要がありますが、薬を飲まなくても良いほどの症状の改善が期待出来ます。鼻症状が強く、ステロイドを内服しないといけないような難治性のアレルギー性鼻炎や、喘息に合併する場合などで特におすすめしたい治療です。副作用としては、口の中の腫れ,かゆみ,不快感,異常感、唇の腫れ,喉の刺激感や不快感、耳のかゆみなどが内服開始後1~2か月以内に起こることがあります。重大な副作用としてはアナフィラキシーショックが挙げられますが、舌下免疫療法では非常に稀(100万人に1人)です。初回投与は院内で行い、30分観察を行います。治療にあたっては、アレルゲン検査が必要となりますので、ご希望の方は医師と相談ください。

  • 現在活動性の悪性腫瘍や膠原病、妊娠中、授乳中の方は内服することは出来ません。
  • スギ舌下免疫療法(シダキュア)は6月~11月開始となります。
オマリズマブ(ゾレア)

オマリズマブ(ゾレア)は、即時型アレルギーの原因となるIgEの一部に結合し、炎症細胞への結合を阻止することで抗アレルギー効果を期待出来る注射薬です。アレルギー性鼻炎に対する投与にあたっては、下記条件を満たす必要があります。

ゾレアによる治療を受けるための条件
  • 原因となる花粉抗原に対してIgE抗体が陽性である
  • 過去の治療において、花粉抗原の除去と回避を行ったうえで、鼻噴霧用ステロイド薬と抗アレルギー薬を併用しても、重症又は最重症のアレルギー性鼻炎症状が認められた。
  • 季節性アレルギー性鼻炎の治療を1週間以上行っても効果不十分であった。
  • 12歳以上で、IgEが30~1500 IU/ml、体重が20~150kgの範囲にあること
費用
  • 4443円~69952円/月(3割負担、診察代含まない)
    *体重、IgE値により異なります。
オマリズマブ(ゾレア)の作用

ゾレア皮下注射シリンジ
Novaltis社HPより

アレルギー性鼻炎の環境対策

スギ花粉症対策

花粉症のうがい方法

外出時に吸い込んだ花粉は鼻やのどの粘膜に付着しています。家に帰ったら早めにうがいを行うようにしましょう。鼻うがいを併用するのも効果的です。点鼻ステロイドを使用している方は点鼻前に鼻うがいを行うとよいでしょう。

花粉症とマスク選び

コロナウイルス感染予防でも重要なマスクは花粉症対策としても有効です。不織布(使い捨て)マスクが効果が高くおすすめです。「鼻を出さない」「面をさわらない」「再利用しない」を気をつけて花粉症を予防しましょう。

花粉症:外に出かける時に気をつけたいこと

外に出かけるときに意識したいのは目・鼻・のどに花粉を入れないこと、自宅に花粉を持ち込まないことです。「つば付き帽子」「めがね(だてめがね)」「綿・ナイロン素材の服装」を行うと、花粉の付着を防ぐことができます。帰宅前には必ず外で花粉をはらってから入りましょう。コートや帽子などは玄関付近に置き、自宅内に持ち込まないようにするとよいでしょう。帰宅後は着替えを行い、手洗い・うがい(可能であれば洗顔)を行いましょう。

ダニアレルギー性鼻炎対策

日本は高温・多湿であり、ダニが増殖しやすい気候と言われています。特に「コナヒョウヒダニ」と「ヤケヒョウヒダニ」は8割以上の家屋で検出されるとも言われています。 実はダニそのものが人間にとってアレルゲンとなるわけではなく、ダニのフンや死骸の破片中に含まれる成分がアレルゲンとなります。ダニは気温25℃、湿度75%前後で最もよく繁殖します。このため寝具中のダニ抗原のピークは8月、床のダニ抗原のピークは9月となります。

ダニ掃除4つのポイント

寝具・寝室

冷房や除湿を行うなど、寝室の湿度や温度を下げることもダニの繁殖予防には効果的です。 布団は1週間に1度は天日干しを行い、その後ダニの死骸を除去するために掃除機をかけましょう。目安としておおよそ布団1枚に対し1~2分かけるとよいでしょう。布団乾燥機を使用するのもよいですが、その後必ず掃除機をかけましょう。また、ほこりが浮遊しにくいようにベッドにするのもよいでしょう。その場合はベッド下もしっかり掃除できるように、スペースがあるものを選びましょう。ダニを通さない構造をした寝具(防ダニ寝具)を利用するのも効果的でしょう。

床の掃除

絨毯よりはフローリングが望ましいと考えます。念入りに掃除機をかけましょう。(3日に1回程度、1m2あたり20秒程度が目安)掃除中は換気のため窓を開け、掃除機の吹き出し口は窓の外へ向けましょう。

布地は出来るだけ避ける

ソファ等の家具は布地で出来たものは避け、皮革やビニール製のものが望ましいでしょう。もしあれば、1週間に1回は掃除機をかけましょう。ぬいぐるみや布地のクッション等は置かないことが望ましいですが、もしあれば少なくとも1ヶ月に1回は洗濯を行いましょう。

カーテンも洗濯を

カーテンは洗濯機で洗える薄手のものを選び、月に1回程度を目安に洗濯を行いましょう。ブラインドカーテンにするのも効果的です。

その他のアレルギー性鼻炎

スギやダニ以外に問題になるアレルギーとしては、「イネ科」や「キク科」をはじめとする雑草やスギ花粉と飛散時期が紛らわしい「ハンノキ花粉」があります。

イネ科植物の特徴

イネ科の植物は道ばたや草地、河川敷に自生しています。カモガヤ、オオアワガエリ、ハルガヤなどが代表的です。オオアワガエリは「チモシー」と呼ばれウサギのえさとして家庭内に持ち込まれることがあります。イネ科アレルギーがある方は注意しましょう。花粉の時期は5-8月頃となります。

キク科植物の特徴

キク科の植物は道ばたや草地、河川敷に自生しています。代表的な植物としてはブタクサやヨモギ、タンポポ、キリンソウがあります。花粉の飛散時期は8-11月頃となります。花屋さんで勤務されている方はセイヨウ菊などにも注意しましょう。

ハンノキ(カバノキ科)の特徴

ハンノキは本州にはばひろく分布し、山野の低地や湿地、沼に自生する樹木です。花粉は1月~4月頃に幅広く飛散します。ハンノキ(カバノキ)の特徴は、アレルギーにより花粉植物アレルギー症候群(PFAS)の原因となることです。ハンノキアレルギーがある方は、リンゴやモモなどを食べた時に口や喉がかゆくなることがあります。非加熱の豆乳(大豆)やもやし、セロリなどを食べると症状が強く出ることがあるので、花粉の飛散時期は特に注意をしましょう。

花粉植物アレルギー症候群(PFAS)とは

花粉植物アレルギー症候群(PFAS)とは、花粉症がある患者が果物等を食べることにより起こるアレルギーです。花粉抗原と野菜や果物に含まれる抗原の形が似ているため起こります。口腔内の痒みが主症状で、口腔アレルギー症候群(OAS)とも呼ばれています。

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