アレルゲン免疫療法とは
アレルギー性鼻炎にはスギなど季節性に悪化する季節性アレルギー性鼻炎とダニをはじめとする通年性アレルギー性鼻炎があります。アレルギー性鼻炎の治療にはくしゃみ・鼻汁・鼻閉などの症状を改善させる薬物治療(対症療法)と、アレルゲンを少量づつ内服し体質改善を行うアレルゲン免疫療法(体質改善)があります。またアレルゲン免疫療法には注射で行う皮下免疫療法と舌の下で行う舌下免疫療法がありますが、当院では舌下免疫療法のみ行っております。舌下免疫療法は、スギ抗原(シダキュア)とダニ抗原(ミティキュア)に対する薬があり、アレルギー検査等で確定診断がついた患者さんに適応があります。(他院で行ったアレルゲン検査の結果をお持ちの方はご持参ください。)
得られる効果は?
スギ免疫療法(シダキュア)
- スギ花粉によるアレルギー性鼻炎の改善・軽症化
- スギ花粉によるアレルギー性鼻炎合併喘息の増悪予防
ダニ免疫療法(ミティキュア)
- ダニによるアレルギー性鼻炎の改善
- ダニアレルゲン陽性喘息の軽症化(吸入ステロイドの減量、喘息増悪頻度の抑制効果)
- 長期に渡り新たなアレルゲン獲得を抑制
- ダニアレルゲン陽性の小児喘息に対する根治性
何歳から始められる?
5歳以上の方に治療を行っています。
投与出来ない方は?
- 妊娠中、授乳中の方
- 抗がん剤治療中の方
- 自己免疫疾患(膠原病)に罹患している方
- βブロッカー(降圧薬や心不全の薬)を内服している方
- 気管支喘息が不安定な方
治療方法
- 初回は医療機関で内服を行い、30分の体調観察を行います。
- 翌日以降は自宅で内服を行います。
- 開始1週間は少量から内服し、1週間後に増量を行います。
1か月あたりの薬価(3割負担)
主な副作用
- 口の中の腫れ,かゆみ,不快感,異常感、唇の腫れ,喉の刺激感や不快感、耳のかゆみなどがあります。通常、1か月程度内服すると落ち着いてきます。抗ヒスタミン薬を一緒に内服すると起こりにくいと思います。
- アナフィラキシー:蕁麻疹、腹痛・おう吐、息苦しさなどの呼吸器症状
*舌下免疫療法によるアナフィラキシーショックは非常に稀(100万人に1人)です。
内服上の注意点
- 長期間(3か月以上)服薬を休止する場合、再開時は少量より再開します。
- 服薬直前および2 時間以内は激しい運動、アルコール摂取、入浴は避けましょう。
- 投与開始初期は、できるだけ日中家族のいる場所で服用しましょう。
- 喘息発作時、風邪(発熱)、口の中に傷や炎症があるときは内服を中止しましょう。
喘息に対するダニ舌下免疫療法の効果
小児喘息に対するダニ舌下免疫療法の効果
ダニアレルギー性鼻炎および喘息を罹患している小児に対し、ダニ舌下免疫療法を行うと、治療終了時(5年後)、および10年後に喘息を罹患していた患者の割合が大幅に減少したことが報告されています。ダニアレルゲン陽性の小児喘息は、成人喘息への持ち越し・再発症が多く、小児期でダニ舌下免疫療法を行う意義は大きいと考えます。
喘息に対するダニ舌下免疫の効果
ダニアレルゲン陽性の喘息に対しダニ舌下免疫療法を3~5年間行うことで、喘息が軽症化(減薬効果、増悪を抑制、生活の質を改善)し、さらに新たなアレルゲン感作を抑制することが分かっています。さらに舌下免疫療法は一定期間治療後もその効果が生涯に渡り持続することが特徴です。喘息予防・管理ガイドラインでは軽症~重症問わず、肺機能が安定しているダニアレルギー性鼻炎合併例では、追加治療として舌下免疫療法が推奨されています。
舌下免疫療法がアレルギーを抑制する仕組み
アレルギー性鼻炎や喘息を引き起こす2型炎症性アレルギーには「IgE」「2型ヘルパーT細胞(Th2)」「2型自然リンパ球(ILC2)」「好酸球」という4つの細胞が関与しています。舌下免疫療法は①IgG4という中和抗体を作りIgEをブロック、②制御性T細胞(Treg)により2型ヘルパーT細胞(Th2)を抑制、③1型自然リンパ球(ILC1)により2型自然リンパ球(ILC2)を抑制、④Th2およびILC2を抑制することにより好酸球を抑制させ、2型炎症性アレルギーに対し抑制的に働きます。
ダニ舌下免疫療法の治療期間はどれ位行うとよいのか?
舌下免疫療法を「5年」行うと「6~8年」かけて鼻と気管支のアレルギーが改善します。アレルギー改善効果は治療開始後よりすぐ得られ年単位で効果が高まっていきます。「5年」治療を行うと、「3年」「4年」治療するよりもその後のアレルギーの再燃が少ないと考えられています。
舌下免疫療法は新たなアレルゲン感作を抑制する
既に1つでも特異的IgE陽性アレルギーを持っていると、15年間でほぼ100%新たなアレルゲン感作を起こしていました。これに対し、舌下免疫療法を5年間行うと新たなアレルゲン感作を起こす割合が15年間で10%程度まで抑制されたと報告されています。ダニ舌下免疫療法は一定期間治療を行うことで新たなアレルゲン感作を生涯に渡り予防する効果があると考えられます。
舌下免疫療法により新たなアレルゲン感作を予防する意義は?
新たなカビに対する感作を予防し、将来の喘息重症化リスクを軽減
10年以上治療している喘息患者の感作アレルゲンの推移をみた研究によれば「アスペルギルス(カビ)」「シラカバ花粉」に対し新たに感作されるケースが多いことが分かっています。特に「アスペルギルス」というカビに対するアレルゲン感作は喘息重症化のリスクとなることが分かっています。3段論法にはなってしまいますが、舌下免疫療法により新たなカビに対する感作を予防することは、将来の喘息重症化リスクを軽減することにつながると考えられます。
参考:新たなアレルゲン感作抑制は食物アレルギー予防に寄与するか?
大人の食物アレルギーで多いものは「甲殻類」「小麦」「魚類」「果物」「大豆」の順と言われています。また「シラカバ花粉」とバラ科果物には交差反応によるアレルギーが報告されており、非加熱のリンゴやサクランボ、モモ、ナシを食すと喉や口がイガイガする症状が出現しますが、これを「口腔アレルギー症候群」といいます。「小麦」や「甲殻類」を食べた後、運動するとアレルギー症状が強くでる「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」というアレルギーもあり、この3つの機序が大人で起こる食物アレルギーで多いとされています。舌下免疫療法により食物アレルギーを予防したことを検証した大規模臨床試験は今のところありませんが、新たなアレルギー感作を予防するという観点からは、将来の食物アレルギーを未然に防ぐことが出来るのではないかと期待したいところです。
まとめ:喘息に対するダニ舌下免疫療法という選択肢(メリット、デメリット)
ダニアレルゲン陽性喘息に対しダニ舌下免疫療法を行うことのメリットとして①吸入ステロイドを減量②喘息増悪を抑制し、生活の質を改善③新たなアレルゲン感作を予防④投与終了後も生涯に渡り治療効果が持続⑤同じアレルゲン免疫療法である皮下免疫療法と比べ、治療方法が容易であること。デメリットとして①3~5年と長期に渡る治療であること②初回投与は院内で30分観察し副作用を確認する必要があること③1か月程度は口や喉の副作用が起こる可能性があること④治療開始後は毎月通院が必要であること⑤治療費用は月額1800円(11万円/5年)程度かかることが挙げられます。ご自身の考え方や価値観の沿って治療を行うべきかを考えてみましょう。
参考:舌下免疫療法Q&A