2022.11.12(土)赤坂ワクチンフォーラムに聴講者として参加致しました。
帯状疱疹予防ワクチン(シングリックス)についての講演会でした。
本邦で現在使用できる帯状疱疹予防ワクチンには2種類あります。水痘生ワクチンと不活化アジュバントワクチン(シングリックス)です。いずれも50才以上の方に適応があります。ワクチンは当然ですが接種することにより感染を防げるべき病気は防ぐというコンセプトの元に行われます。そのため、ワクチンを接種するかどうかは「国が接種を推奨するのか?」「公費助成を行うのか?」「費用対効果はどうか?」など公衆衛生的な視点から考える必要があります。「そもそも帯状疱疹はワクチンで予防すべきか?」「接種するのであればどちらのワクチンを接種すべきか?」という疑問への答えになるかもしれませんが、水痘生ワクチンと不活化アジュバントワクチンにはそもそも効果に大きな差があります。そしてアメリカの感染症の司令塔といわれている疾病予防管理センター(CDC)を含め、実は世界的には生ワクチンではなく不活化アジュバントワクチンを推奨する流れになっていることに注目すべきだと思います。
以下聴講録を記載します。
*個人の聴講録であり内容について保証するものではありません。
<講演>
・With/Afterコロナの高齢者ワクチン戦略(永井英明先生)
<講演内容>
・高齢者に推奨される3つのワクチン
①インフルエンザ ②肺炎球菌 ③帯状疱疹
①インフルエンザワクチン
・65歳以上の本邦のワクチン接種率は66%(2020年は例年より接種率やや多い)
・死亡例は高齢者がほとんど
②肺炎球菌ワクチン
・肺炎の死亡率(誤嚥性肺炎除く)は第5位
・死亡者の95%以上は高齢者が占める
・定期接種実施率は15.8%(2020年)とあまり進んでいない
【帯状疱疹】
・50歳以上の日本人の抗体保有率は100%
・帯状疱疹の発症率は年齢により上昇する
・50歳以上の発症で65.7%を占める
【宮崎スタディ】
・1997-2017年間の帯状疱疹患者は右肩上がりで上昇している。
・同地域での人口は低下しているにも関わらず患者数は上昇している。
・水痘ワクチン2014年10月定期接種以降、発症率上昇している。
・水痘の自然感染患者が減少したことが帯状疱疹発症率増加の一因と推測される
(水痘の市中感染減少→成人の水痘に対する免疫能低下→帯状疱疹発症率増加)
【小豆島スタディ】
・帯状疱疹後疼痛(PHN)は50歳以降で2割以上起こる
・高齢になればなるほどPHNの割合が多くなる
【釧路市の報告】
・帯状疱疹後疼痛を訴えた患者の割合(90日後):19.9%
・帯状疱疹感染に関する直接医療費
合併症なし:4万円 合併症あり(PHNなし):6万円 PHNあり:10万円
帯状疱疹に感染すると医療費は高額となり、PHNありでは顕著である。
【各種併存症と帯状疱疹発症リスク】
<RRについて>
「リスク比(risk ratio)」=「相対リスク(relative risk:RR)」とは、ある状況下(高血圧や糖尿病など)におかれた人とそうでない人とで、ある疾患(帯状疱疹)になるリスクの比を表します。
・関節リウマチ:RR1.67
・COPD(慢性閉塞性肺疾患):RR1.31
・COPD(全身ステロイド内服):RR3.00
・喘息:RR1.25
・心理的ストレス:RR1.18
・スタチン(高脂血症薬)内服:RR 1.14
【帯状疱疹とCOVID19の関係】
・COVID19入院後1週間以内の帯状疱疹発症例が最も多い
・T細胞数の減少がCOVID-19重症化、入院死亡率と相関→「細胞性免疫低下」を示唆
・CD8+細胞減少はCOVID19重症化リスクでもあり帯状疱疹発症のリスクとなる
・ブラジルの報告:地域の帯状疱疹発症率とCOVID19発症率に明らかに関連あり
・アメリカの報告:COVID19感染後に帯状疱疹のリスクが上昇する
・COVID19感染後は+15%の帯状疱疹発症率
・COVID19感染入院後は+21%の帯状疱疹発症率
【水痘生ワクチン】
・Zostavax(2006年 アメリカで承認)
・2016年 50歳以上に対する予防として適応
・帯状疱疹予防効果
60歳以上:51%, 60-69歳:64%, 70-79歳:41%, 80歳以上:18%
水痘ワクチンによる予防効果は特に70才以上で低下する
【シングリックス】
・帯状疱疹予防効果
シングリックスでは70才以上でも90%以上の発症予防効果を示す
<Zoster-006試験>
50歳以上 97.2%
<Zoster-006+022(併合解析)>
70歳以上:91.3%, 80%以上:91.4%
・有害事象
注射部位疼痛 78.0%
多くは2-3日以内でおさまる
<ACIPによる推奨>
・ACIPとは米連邦政府の委託委員会で,米国疾病予防管理センター(CDC)と米国保健福祉省(DHHS)に予防接種を推奨する機関
・帯状疱疹生ワクチンよりもシングリックスの方が望ましいと結論
・そのためアメリカでは2020年に水痘生ワクチンであるZostavaxが販売中止となった。
<各国の推奨状況>
・欧州の複数の国では既にシングリックスのみ推奨となっている
<シングリックスの長期効果>
・10年後:73.2%
<実臨床データ:後ろ向き解析>
・シングリックスの予防効果(実臨床のデータ:アメリカ)
50歳以上 85.5%
5年以内に水痘生ワクチンの接種歴あり/なしでもシングリックス予防効果に差はなし
自己免疫性疾患 68.0%
<GOLD(COPDガイドライン)>
・50歳以上のCOPDに対し帯状疱疹ワクチンの接種を推奨
<費用対効果>
・増分費用効果比(Incremental cost-effectiveness ratio: ICER)」と呼ばれる指標
ICER=(新治療費用ー比較治療費用)/(新治療効果ー比較治療効果)=□円/QALY
QALY:質調整生存年 (QALY; Quality-adjusted life year)
QALYの計算方法:ある健康状態でのQALY =【QOLスコア】 × 【生存年数】
生存年数と生活の質(QOL)の双方を考慮する。
QOLついては、1を完全な健康、0を死亡とする「QoLスコア(効用値)」を用いる。
・65歳以上の日本人シングリックスは帯状疱疹を71423万/100万人減らしPHNを15858人/100万人減らす
・ICER 420万円/QALY
・本邦では500―600万円/QALY以下であれば費用対効果に優れるといわれている
<公費助成>
・日本以外のG7はすべて国が推奨している(本邦なし)
・米英仏:助成あり
・カナダドイツ,イタリア,日本:一部地域で助成あり
・本邦の助成状況:計32自治体 (生ワクチン4, 不活化ワクチン3, 両ワクチン25)
・助成額:10000~15000円×2回は9自治体
・全国では名古屋市がはじめて助成に踏み切った
<ディスカッション>
・助成額と接種率は比例するが, 助成されている自治体でも接種率は苦戦している。
・医師による患者への積極的な接種勧奨が必要。
・全ての自治体で公費助成が行われるよう働きかけなければならない
・50才未満(特に免疫不全者)に対する適応拡大が課題
・帯状疱疹は細胞性免疫が低下すると起こりやすい
・細胞性免疫が低下している患者への接種を積極的に推奨したい
・関節リウマチに対するJAK阻害薬、抗がん剤治療患者など
Q)生ワクチンを既に接種している場合の接種間隔は?
A)8週以上空けましょう(CDC)
Q)帯状疱疹発症後からワクチンまでの間隔は?
A)急性期(皮疹が治ってから)を過ぎてから接種しましょう
Q)1回のみの接種の効果は?
A)56.9%
Q)2回目接種が180日以降になった場合の予防効果は?
A)71.1%
Q)ワクチン接種時の観察時間は?
A)15分程度観察すれば良い