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【講演会演者】「喘息診療における患者コミュニケーション」Respiratory Conference in Nagoya

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2024.12.14 名古屋で行われました喘息治療に関する講演会に演者として参加致しました。
座長の表先生をはじめ、非常に活発なDiscussionも行われました。

以下、講演録(ダイジェスト)となります。
ご興味がある方はぜひご覧ください。



















喘息患者における患者コミュニケーションの重要性と実践


1. はじめに

喘息は慢性疾患であり、治療継続率の低さが問題となっている。治療継続率の低下は患者の健康状態悪化や生活の質(QOL)の低下を招くことが指摘されている。こうした背景から、医師と患者の効果的なコミュニケーションが、治療継続やアドヒアランス(服薬遵守)の向上に不可欠であると考えられている。

患者中心の医療を実現するためには、**「シェアード・デシジョン・メイキング(SDM)」**を導入し、患者自身が治療に積極的に参加することが重要である。本稿では、喘息診療における患者コミュニケーションの課題とSDMの実践方法について述べる。


2. 喘息患者における現状と課題

2.1 喘息治療の継続率低下

喘息患者における吸入治療継続率は低く、ICS/LABA治療では1年後の継続率が13%、ICS単独治療では9%にとどまる【1】。日本における3剤併用療法(ICS/LABA+抗コリン薬)においても、12カ月後の継続率は38.5%と報告されている【2】。

2.2 治療継続が難しい背景

喘息患者の治療中断が多い要因として、以下が挙げられる。

  • 患者のヘルスリテラシー不足(疾患や治療の理解度が低い)
  • 吸入薬の効果を実感しづらい
  • 症状が出ていない時に治療の必要性を感じない
  • 経済的な負担や通院の手間

喘息は**「症状が出てから治療する疾患ではなく、症状が出ないように管理する疾患」**であるが、この認識が患者の間で十分に浸透していないのが現状である。


3. なぜ患者コミュニケーションが必要なのか

3.1 診療環境の変化と患者ニーズ

近年、医療技術の進歩により治療の選択肢は増加し複雑化している。一方、患者が求める医療の質や水準も向上しており、医師と患者の信頼関係が重要視されるようになった。

3.2 SDM(シェアード・デシジョン・メイキング)の効果

SDMは、医師と患者が共同で治療方針を決定する方法であり、以下の効果が期待される。

  • 治療継続率の向上
  • 患者満足度の向上
  • 治療への理解度と納得感の向上

実際、SDMを導入した群では、治療継続率が医師単独で方針決定を行った群に比べて高かったと報告されている【3】。


4. 患者コミュニケーションの実践方法

4.1 患者の価値観や背景を理解する

患者一人ひとりの価値観、生活背景、経済的状況を理解することが重要である。以下のような質問を用いると効果的である。

  • 「今、喘息で一番困っていることは何ですか?」
  • 「治療を続けることで、どのような生活を送りたいですか?」

患者の答えに耳を傾け、治療の必要性や目標を患者自身が理解できるようサポートする。

4.2 ナッジ理論の活用

ナッジ理論は、強制せずに望ましい行動を促す方法であり、患者の治療継続に役立つ。

具体例:

  • 「喘息がよくなったか確認したいので、次の外来はいつにしましょうか?」
  • 「2本目の吸入薬を開封したら、次の予約を取りましょう。」

患者の治療継続を自然に促すことで、アドヒアランスの向上が期待できる。

4.3 ディシジョンエイドを活用する

ディシジョンエイドは、患者が治療方針を決定する際に役立つツールである。パンフレットや図表を用いることで、患者が治療のメリット・デメリットを理解しやすくなる。

例:治療継続のメリットとデメリット

治療を続けるメリット 治療を続けないデメリット
増悪が少なくなる 増悪時に日常生活に支障が出る
将来の重症化を予防 肺機能が低下し重症化のリスク増大

このように具体的な数値や効果を示すことで、患者の理解と納得感が深まる。

4.4 限られた時間でのSDM実践

外来診療は時間が限られているため、効率的なコミュニケーションが求められる。以下のポイントを意識するとよい。

  1. 開かれた質問を行う:「今の話を聞いてどう感じましたか?」
  2. 医療者の意思表示:「納得できる治療法を一緒に考えましょう。」
  3. 理解度の確認:「治療のメリットやデメリットについて、どう思いますか?」

短時間でも患者の価値観や希望を把握し、治療方針を共有することが可能である。


5. 患者中心性医療の実現に向けて

患者中心性医療を実践するためには、患者が**「Perceived Control(自分で喘息をコントロールできるという認識)」**を持つことが重要である。Perceived Controlは、患者のQOL向上や重症化予防と関連しており、医療者との良好なコミュニケーションがその形成に寄与する。

また、診療情報や治療効果を「見える化」することで、患者が自身の状態を理解しやすくなり、治療継続への意識づけにもつながる。


6. まとめ

喘息診療において、医師と患者の効果的なコミュニケーションは治療の成功に欠かせない要素である。シェアード・デシジョン・メイキング(SDM)やナッジ理論を活用し、患者一人ひとりの価値観に寄り添った治療方針を提案することが求められる。

患者が治療の意義を理解し、自ら納得して治療に参加することで、治療継続率の向上や長期的な喘息コントロールが可能になる。限られた診療時間の中でも、ディシジョンエイドや適切な会話法を用いることで、効果的な患者コミュニケーションを実現することができる。

患者中心性医療の実践は、患者と医療者双方にとって有益であり、これからの喘息診療における重要な課題である。


参考文献

  1. Breekveldt-Postma NS, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2008;17(4):411-22.
  2. Suzuki T, et al. Curr Med Res Opin. 2020;36(6):1049-1057.
  3. Sandra R Wilson et al. AJRCCM VOL 181 2010.

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