2024.11.14に行われました長引く咳に関する講演会に演者として参加致しました。長引く咳は3週間以上続く「遷延性咳嗽」と8週間以上続く「慢性咳嗽」を言います。また、既存治療を十分行っているにも関わらず改善しない咳嗽を「難治性慢性咳嗽」といいます。プライマリケアに関わる先生方向けに、「咳の診かたと考え方」と題して講演をさせて頂きました。
以下、講演要旨となります。
ご興味がある方はぜひご覧ください。
<講演要旨>
本講演では、長引く咳の診療に関する最新の知見を踏まえ、診断と治療の実際のアプローチを紹介した。呼吸器内科医師として、日常診療において頻繁に遭遇する長引く咳の診療の難しさをどのように克服するかについて解説した。長引く咳とは、3週間以上続く咳嗽を指し、患者のQOLを大きく損ない、医療資源を消費する重要な臨床問題である。まず、長引く咳の診療が難しい理由について述べた。咳の原因は非常に多岐にわたり、感冒後咳嗽、GERD(逆流性食道炎)、アトピー咳嗽、喉頭アレルギー、咳喘息、気管支喘息、さらには副鼻腔炎や心因性咳嗽といった疾患が考えられる。これらの原因は単独で存在する場合もあれば、複数が同時に絡み合っていることも多い。特に、複合的な要因が絡み合う場合、原因が明確でないケースが多く、治療も容易ではない。これが、長引く咳の診療を一筋縄ではいかないものにしている要因である。さらに、咳の発症機序に関しても解説を行った。咳は、咳受容体が外部からの刺激を感知し、迷走神経を介して脳幹の咳中枢に伝達されることで引き起こされる。咳受容体は、気道の至るところに分布しており、食道や喉頭にも存在する。そのため、逆流性食道炎(GERD)などが咳の原因となることもあり得る。また、食道への胃酸逆流による刺激が迷走神経を介して咳を引き起こす機序も紹介した。このようなメカニズムを理解することで、患者の咳の原因を的確に突き止めることが可能となる。次に、診断アプローチについて述べた。長引く咳の診療において最も重視すべきは、「問診が診断の8割を占める」という点である。問診を通じて患者の生活背景や症状の特徴を詳細に把握し、鑑別診断を進めることが重要である。具体的には、咳が始まったきっかけや悪化する時間帯、胸焼けや喉の違和感の有無、過去に使用した治療薬の効果、気道過敏性が示唆されるエピソードなどを丁寧に聴取する。例えば、寒暖差や花粉、煙などに対する過敏な反応があるかどうかを確認することで、アレルギー性の要因を特定する手がかりとなる。また、咳が悪化する状況や、咳がどの程度生活に支障をきたしているかを把握することも重要である。このように問診を通じて原因を特定し、必要に応じて胸部X線、胸部CT、喀痰検査などを行うことで、診断を補強するのが基本的な診療の流れである。治療方針に関しては、近年注目されている「Treatable traits(治療可能な形質)」と「Precision medicine(精密医療)」の考え方を紹介した。これらの概念は、従来の疾患単位の治療アプローチとは異なり、患者の個々の特性に基づいた治療を行うというものである。例えば、GERDが原因であれば、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用が推奨されるが、患者によっては食事療法や就寝時の姿勢の工夫も必要となる。一方で、アトピー咳嗽や喉頭アレルギーには抗ヒスタミン薬が効果的である場合が多いが、吸入ステロイドの追加が求められることもある。このように、治療可能な形質を見極めて患者ごとに最適な治療を行うことが、長引く咳の治療には不可欠である。難治性咳嗽に対するアプローチも具体的に解説した。難治性咳嗽は、標準治療に反応しない慢性的な咳であり、原因が特定できない場合も少なくない。こうした症例に対しては、複数の疾患が関与している可能性を考慮し、総合的な治療が求められる。例えば、GERDと咳喘息が合併しているケースでは、両方の治療を同時に行う必要がある。また、治療効果が現れにくい場合は、食道インピーダンス検査などを用いてGERDの存在を確認することも検討される。食事療法としては、就寝前の食事を控えることや、枕を高くして就寝するなどの生活指導が効果を示すことがある。さらに、実際の治療においては、治療反応性を確認しながら治療方針を柔軟に見直すことが重要である。例えば、咳喘息に対しては吸入ステロイドが有効な場合が多いが、効果が限定的な場合は気管支拡張薬を併用するなど、患者の反応を見ながら調整を行う。PPIによるGERD治療でも効果が見られない場合には、消化管運動改善薬の併用や外科的治療も検討される。最後に、講演では咳の原因が複数同時に存在する可能性を強調した。一つの疾患だけを治療するのではなく、複合的な要因を考慮して包括的にアプローチすることが、長引く咳の治療には必要である。Treatable traitsを特定し、それに基づいた個別化医療を提供することが、患者の症状改善に繋がる。
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