2025.02.20に行われました杏林製薬によるWeb講演会「長引く咳の診かたと考え方」に演者として参加いたしました。以下、講演内容のダイジェストとなります。ご興味がある方はごらんください。
長引く咳の診療とその考え方
長引く咳の診療はなぜ難しいのか?
長引く咳の診療が難しい理由は、鑑別すべき疾患が多岐にわたることにある。咳嗽(がいそう)は単なる症状ではなく、複数の病因が関与する可能性が高い。咳の原因として頻度の高いものには、感冒後咳嗽、逆流性食道炎(GERD)、アトピー咳嗽(AC)、喉頭アレルギー、咳喘息(CVA)、後鼻漏、副鼻腔炎などがある。また、肺炎や肺悪性腫瘍といった生命に関わる疾患を見逃さないことも重要である。加えて、診療の場では限られた時間とリソースの中で適切な診断と治療を行わなければならない。そのため、近年では「Treatable traits(治療可能な形質)」と「Precision medicine(個別化医療)」の概念が注目されている。これは、疾患単位ではなく、患者ごとの個別の病態に応じた治療を行うというアプローチである。
長引く咳の診断アプローチ
診断において問診は非常に重要であり、長引く咳の8割は問診のみで可能である。
以下のような質問を行い、咳のパターンを把握することが推奨される。
- 咳が長引いて困ったことはあるか?
- かぜ症状の後に咳が始まったか?
- 咳が悪化する時間帯は?(起床後、日中、夜間など)
- 咳が悪化する状況は?(会話中、運動後、食事後など)
- 胸焼けや胃の不快感はあるか?
- 鼻水がのどに流れる感じがあるか? など
これらの情報をもとに、鑑別診断を進める。
長引く咳の主な原因疾患
1. 逆流性食道炎(GERD) GERDは胃酸が食道へ逆流し、胸焼けや咳を引き起こす疾患である。特に、咳の原因としてのGERDは増加傾向にあり、咳喘息との合併も多い。GERDの治療にはプロトンポンプ阻害薬(PPI)が有効だが、PPI抵抗性のケースもあり、食事療法(就寝前3時間の食事回避など)が推奨される。
2. 後鼻漏(PNDS) 後鼻漏は、鼻から喉へ流れる分泌物が咳の原因となる。患者の約20%は後鼻漏の自覚がないため、鼻鏡や喉頭ファイバーを用いた診断が重要である。治療には抗ヒスタミン薬や点鼻ステロイドが用いられる。
3. 咳喘息(CVA) 咳喘息は、喘鳴を伴わず慢性的な咳を引き起こす喘息の一種である。気管支拡張薬(SABA/LABA)や吸入ステロイド(ICS)が有効であり、適切な治療を行わないと喘息へ移行する可能性がある。
4. アトピー咳嗽 / 喉頭アレルギー アトピー咳嗽は、中枢気道の炎症による咳であり、気管支拡張薬が無効である点が咳喘息との鑑別ポイントとなる。抗ヒスタミン薬が有効な場合が多いが、奏功しない場合は吸入ステロイドが使用される。
難治性慢性咳嗽の治療
P2X3受容体拮抗薬(ゲーファピキサント) 難治性慢性咳嗽に対して、新たに登場した治療薬がP2X3受容体拮抗薬である。ゲーファピキサントは、咳反射に関与するP2X3受容体をブロックすることで、咳を軽減する。臨床試験では、24時間の咳嗽頻度を有意に減少させることが示されている。一方で、味覚障害の副作用が報告されており、患者と相談しながら使用を検討する必要がある。
まとめ
長引く咳の診療は、単なる咳止めの投与ではなく、原因を特定し、それに応じた治療を行うことが重要である。「Treatable traits」や「Precision medicine」の考え方を取り入れることで、より個別化された治療が可能となる。特に、難治性慢性咳嗽に対してはP2X3受容体拮抗薬のような新たな治療法も選択肢となる。
引用文献
- Kian Fan Chung, Lancet 2008; 371: 1364–74.
- Nat Rev Gastroenterol Hepatol 2016 Aug;13(8):445-60.
- J Allergy Clin Immunol Pract 2018;6:1613-1620.
- Eur Respir J. 2021 May 13:2004240 (Eliapixant phase2).
- McGarvey LP, et al. Lancet. 2022; 399(10328): 909-23.
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