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【講演会演者】高齢者のVPDについて考える~RSウイルス予防ワクチンを含めて~

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2024.12.19に行われましたワクチンに関する講演会に演者として参加致しました。VPDとは、 Vaccine Preventable Disease:ワクチンで防げる病気のことです。高齢者のVPDには「インフルエンザ」「肺炎球菌」「帯状疱疹」「RSウイルス」があります。それぞれのワクチンの予防効果を含め、ワクチン行政や世界のガイドライン等から現在の立ち位置を振り返りました。また医師として患者さんにどのような情報提供を行ったらよいか?という視点で講演を行いました。以下講演録となります、ご興味がある方はぜひご覧ください。

高齢者の健康を守るワクチン接種の重要性

近年、ワクチンによる予防が可能な病気(VPD: Vaccine Preventable Disease)の範囲が広がり、高齢者の健康維持における役割がますます重要になっている。本稿では、高齢者を対象とした肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、新型コロナウイルスワクチン、帯状疱疹ワクチン、RSウイルス(RSV)ワクチンについて、その重要性と推奨される接種方法について解説する。


肺炎球菌ワクチン

肺炎球菌は高齢者の肺炎の主因であり、日本における死亡原因の第5位を占めている。特に65歳以上では死亡率が顕著に増加するため、肺炎球菌ワクチン接種が推奨される。肺炎球菌ワクチンには、23価肺炎球菌多糖体ワクチン(PPSV23)と13価または15価の結合型ワクチン(PCV13/15)がある。研究によれば、PPSV23とインフルエンザワクチンの併用は、75歳以上の肺炎による入院率を大幅に減少させることが示されている。また、PCV13/15とPPSV23を組み合わせた接種方法や、20価の結合型ワクチン(PCV20)の使用も推奨されている。特にPCV20は新しい結合型ワクチンであり、従来のPCV13やPPSV23よりも広範囲の莢膜型をカバーし、より強力な予防効果が期待されている。これらのワクチンは基礎疾患を有する患者において特に有効であり、接種率向上が求められる。肺炎球菌ワクチンの導入により、肺炎球菌性肺炎の発症が減少し、医療費削減効果が期待されている。また、成人肺炎診療ガイドライン2024では、基礎疾患のある高齢者に対する優先接種が強調されている。


インフルエンザワクチン

インフルエンザは定期接種B類疾患に位置づけられている。毎年冬季に流行し、特に高齢者に重篤な影響を及ぼす。日本では毎年3000人から1万人がインフルエンザ関連で死亡している。インフルエンザワクチン接種によりインフルエンザ発病を54%減少(米国データ)。本邦の老人施設・病院入院中の高齢者に対する接種により発病阻止効果と約80%の死亡を阻止する効果。本邦の報告ではインフルワクチンによる発症予防効果は30~70%程度。高齢者における肺炎予防効果やインフルエンザ関連の入院を減少させる効果。インフルエンザは毎年冬季に流行し、日本の全人口の5-10%(600-1200万人)が感染し、3000-10000人が死亡している。本人だけでなく、他者へ感染させないためにも、健康な人を含めて、生後6か月以上の全国民がインフルエンザワクチンを接種する必要がある。副反応としては、接種した場所(局所)の赤み(発赤)、はれ(腫脹)、痛み(疼痛)等が挙げられる。接種を受けられた方の10~20%に起こるが、通常2~3日で消失する。全身性の反応としては、発熱、頭痛、寒気(悪寒)、だるさ(倦怠感)などがみられる。接種を受けられた方の5~10%に起こり、こちらも通常2~3日で消失する。


新型コロナウイルスワクチン

新型コロナワクチンは2024.4.1より定期接種B類疾患に位置づけられている。2024年度の定期接種の自己負担額は標準的には7000円で、市町村等からの助成によって異なる。主に65歳以上を対象としている。世界では2020年12月からの1年間にCOVID-19による死亡を1440万人防いだと推計されている。日本でも新型コロナワクチンが導入されていなかったら、2021年2月から11月の期間の感染者数は報告数の13.5倍、死者数は36.4倍であったと推定されている。オミクロン株流行期の2022年1月から5月の東京都でも、直接的・間接的に感染者数を65%減少させた。我が国で実施された血清疫学調査では2024年3月時点で、感染既往を示す抗体保有率は全年齢で60.7%であったが、60代で51.9%、70代で32.8%であった。未だ高齢者を中心に自然感染による免疫を獲得していない人が多いことを示しており、引き続きワクチンによる免疫の獲得が予防に重要であることを示している。2023年秋開始接種としてXBB.1.5対応ワクチンの特例臨時接種が実施されたが、接種率は全体で22.7%、高齢者でも53.7%にとどまり、高齢者の免疫が十分ではないことが考えられる。2023年5月から2024年4月の1年間のCOVID-19による死亡者数は32576人であった。2023年5月の5類以降までの3年4カ月間のCOVID-19の死者数は74096人であった。2017, 2018年2シーズンの60歳以上のインフルエンザの平均年間死者数は10908人であった。オミクロン株流行期の海外データでは65歳以上のCOVID-19入院患者の30日以内致命率はインフルエンザよりも1.78倍高い。COVID-19の罹患後症状(Long COVID)は高齢者でも見られ、本邦の日常生活に支障をきたす程度の症状が3カ月以上持続する人の割合が70歳以上で15.7%であった。COVID-19罹患後は1年間にわたって心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが1.6~3.6倍増加し6認知機能低下や認知症の発症にも関連していること7が報告されている。新型コロナワクチンには発症予防効果や重症化予防効果だけでなく、COVID-19の罹患後症状を予防する効果もある。2021~2022年の新型コロナワクチンと罹患後症状の関連に関する世界の5つの研究をまとめた分析では、新型コロナワクチンを2回以上接種した人では罹患後症状の頻度が43%減少していたことが報告されている。新型コロナワクチンは65歳以上の人において、COVID-19関連の血栓塞栓症(虚血性脳卒中、心筋梗塞、深部静脈血栓症)の予防に47%の有効性を示した。米国のCOVID-19関連の入院率は若年成人・青年・小児と比較して、65歳以上の成人で高い。2023年10月から2024年1月までの間、COVID-19関連の入院全体の67%は65歳以上であった1。2023年1月1日から2024年1月31日までのCOVID-19死亡率は75歳以上が最も高く、次いで65~74歳であった。米国人の約98%~99%は、感染、ワクチン接種、またはその両方により、SARS-CoV-2に対する測定可能な抗体価を有しているが、65歳以上は30~49歳および50~64歳と比較して感染後の免疫を有する可能性が低い。免疫系の機能が加齢とともに低下すると、新規抗原に対する免疫応答が不完全になり、感染またはワクチン接種後に強力な免疫を獲得する能力が低下する。ナイーブT細胞のプールは加齢とともに減少し、SARS-CoV-2に反応して中和抗体応答および細胞傷害性T細胞を生成する能力に影響を及ぼす。


帯状疱疹ワクチン

帯状疱疹は50歳以上の65.7%が発症するリスクがあり、高齢者では帯状疱疹後神経痛(PHN)への移行が懸念される。研究では、80歳以上の32.9%がPHNに移行するとの報告がある。帯状疱疹ワクチンには生ワクチン(ゾスタバックス)と不活化ワクチン(シングリックス)があり、特にシングリックスは予防効果が97%と高く、10年間で73%の予防効果を維持する。CDCでは、50歳以上のすべての成人に対してシングリックスの接種を推奨しており、PHNを含む帯状疱疹関連合併症の大幅なリスク低減が期待されている。高齢者における帯状疱疹予防は、生活の質向上や医療負担軽減にも寄与するため、50歳以上を対象に積極的な接種が推奨されている。


RSウイルスワクチン

RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は、特に高齢者や基礎疾患を持つ患者において重大な健康リスクを引き起こす呼吸器ウイルスである。RSウイルスは飛沫感染によって広がり、軽度な風邪のような症状から重篤な下気道感染症まで多様な症状を引き起こす。このウイルス感染による入院や死亡率は65歳以上で顕著に増加し、特に基礎疾患を有する患者ではそのリスクがさらに高まることが知られている。RSウイルス感染症に対する新たな治療手段として、2023年に初めて承認されたRSウイルスワクチンは、今後の疾病管理において重要な役割を果たすと考えられている。ACIP(予防接種諮問委員会)のガイドラインによると、60歳以上の基礎疾患を有する患者および75歳以上のすべての高齢者を対象に、RSウイルスワクチン接種が推奨されている。臨床試験において、RSウイルスワクチンの有効性は、重症下気道感染症の予防で82.58%、入院予防で約70%と高い効果を示している。これらの結果は、特に基礎疾患を有する患者にとって有益であるとされ、RSウイルス感染症による死亡率や医療負担の軽減が期待されている。また、RSウイルスワクチンは、既存のインフルエンザや肺炎球菌ワクチンと併用することで、呼吸器疾患全般に対する包括的な予防策を提供する可能性がある。さらに、ワクチン接種後の安全性プロファイルは良好であり、重大な副反応の発生は低いと報告されている。RSウイルスに対するワクチン接種は、個人の健康維持だけでなく、公衆衛生全体の改善にも寄与する。接種による疾病負担の軽減は医療システムへの負担を低減させ、特にインフルエンザとの同時流行を抑制する点で重要である。さらに、RSウイルスワクチンは新しい臨床試験データに基づき、その有効性と安全性が継続的に評価されている。今後の課題としては、ワクチン接種率の向上とともに、より多くの高齢者にワクチンの重要性を認識してもらう啓発活動が挙げられる。また、長期的なデータを収集することで、接種間隔や追加接種の必要性に関するガイドラインの整備が期待されている。


ワクチン接種の進め方と課題

高齢者へのワクチン接種においては、患者の自己負担や価値観に配慮した共有意思決定(SDM: Shared Decision Making)が重要である。SDMでは、患者と医療者が共に情報を共有し、最適な治療方針を選択する。例えば、肺炎球菌ワクチン接種においては、SDMの導入により接種率が大幅に向上したとの報告がある。また、ワクチンの経済的負担や副作用への懸念を和らげるために、パンフレットや院内掲示を活用することが有効である。さらに、非合理的な判断でワクチンを忌避する患者には、行動経済学の知見を用いて接種のメリットを分かりやすく伝えるアプローチが推奨される。例えば、現状維持バイアスを認識させ、接種による利点を患者に伝えることが効果的である。


まとめ

高齢者におけるワクチン接種は、個人の健康維持のみならず、社会全体の医療費削減や公衆衛生向上に寄与する。肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、新型コロナウイルスワクチン、帯状疱疹ワクチン、RSウイルスワクチンなど、各ワクチンの特性を理解し、適切に推奨することが求められる。医療者としては、患者の背景や価値観を考慮しつつ、科学的根拠に基づいた説明を行うことで、ワクチン接種の推進を図るべきである。


参考文献

  1. Fujikura Y, BMJ Open Respir Res. 2023 Sep;10(1).

  2. Maruyama T, Clin Infect Dis. 2019 Mar 19;68(7):1080-1088.

  3. 日内会誌 113:2064-2069, 2024.

  4. Grohskopf LA, MMWR Recomm Rep 2023:72:1-25.

  5. Kayano T, Sci Rep 13(1):17762, 2023.

  6. CDC. Vaccine safety: coronavirus disease 2019 (COVID-19) vaccines. Atlanta, GA: US Department of Health and Human Services, CDC; 2023.

  7. Takao Y et al.: J Epidemiol. 25(10), 617-625, 2015.

  8. Lal H et al.: N Engl J Med. 372(22), 2087-2096, 2015.

  9. Wildenbeest JG, Lancet Respir Med. 2024 Oct;12(10):822-836.

  10. Savic M et al.: Influenza Other Respir Viruses 2023;17(1), e13031.

  11. Charles C et al.: Soc Sci Med 1999 Sep;49(5):651-61.

  12. Higuchi et al.: BMC Family Practice (2018) 19:153.

 

 

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