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【講演会演者】チーム医療で考える帯状疱疹医療フォーラムin横浜川崎「シングリックスによる帯状疱疹予防 Shared Dcision Making(SDM)の実践」

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2024.10.19 横浜で行われました「帯状疱疹ワクチン」に関する講演会に演者として参加致しました。
聴講者は全員看護師さんでしたがワクチン接種勧奨に関わる「他職種連携」の意義について活発な議論が行われました。

 














以下、講演録となります。
興味がある方はごらんください。

ワクチンによる帯状疱疹予防 Shared Decision Making(SDM)の実践

<はじめに>

近年、帯状疱疹・肺炎球菌・RSVワクチンなど、成人を対象とした新たなワクチンの登場は接種者に福音をもたらした。ワクチンの意義は疾病予防にあり公衆衛生的な観点から対象者全員が接種することが望ましい。しかし本邦で公費助成が行われている肺炎球菌ワクチンですら2019~2021年度の接種対象者当たりの接種率は19.8-21.7%と伸び悩んでいる。何故ワクチン接種率は伸び悩んでいるのだろうか。ワクチン接種を忌避する理由は①理解が不足していること②興味がないこと③副作用を懸念していること④医師による推奨不足が主な原因であった。対照的に接種を行う理由は①ワクチンの認知②有効性の認知③医師の推奨であった。ワクチン接種率向上のためには情報提供と医師の推奨が不可欠である。さらに医療者-患者双方向性の共有意思決定(Shared Decision Making:SDM)を行うと当該ワクチンの接種率が向上したと報告され、SDMの介入には医師のみならず看護師を含めた多職種連携の重要性が指摘されている。

<Shared Decision Making(SDM)とは>

SDMとは、利用可能な治療選択肢のリスク・利点と予想される結果を理解し、エビデンスに基づく質の高い情報と個人の嗜好に基づき、望ましい行動方針を決定するためのサポートであるとされている。生命を脅かさない状況で、医療やケアに関する決定を行う必要があり、様々な選択肢(何もしないことも含む)が利用できる場合に有効である。SDMは、個人が個人の好みに基づいて意思決定できるように支援するものであり、エビデンスに基づく治療方針を遵守する可能性が高く、転帰を改善する可能性が高く、決定したことを後悔する可能性が低くなる。意思決定を共有する際に、患者のヘルスリテラシーのレベルに対処し、健康格差を是正することもできるとされている。

<SDMはヘルスリテラシーが低い方にこそ適応すべき>

ヘルスリテラシーや社会経済的地位の低い患者に対し、SDMによる介入は、知識やインフォームドチョイス、意思決定への参加、意思決定の自己効力感、共同意思決定への意欲を増加させる。そのような患者に対する介入は、平易な言葉で、複雑な医療専門用語を避け、より簡潔なレイアウトと短い形式で介入を行う必要がある。

<SDMを実践するにはどうしたらよいか>

①SHAREアプローチ
Seek:患者さんにSDMへの参加を求める
Help:患者さんが治療選択肢を探索・比較するのを助ける
Assess:患者さんの価値観や嗜好性を評価する
Reach:治療方針の決定を患者さんと一緒に行う
Evaluate:患者さんの決定について評価する

②3つのトークモデル
Team Talk:患者さんにSDMへの参加を求める

Option Talk:治療選択肢について説明する
Decision Talk:嗜好に基づき意思決定を行う

<誰がSDMを実践すべきか>

・SDMによる介入を行うと非介入群と比較して肺炎球菌ワクチン接種率が向上した。
OR(95%CI) 2.26(1.60-3.18)

・SDMプロセスの3つの側面に対するサブグループ解析
①「興味がない患者さんの活性化」
医師よりもテキスト配布による支援や看護師が行う方が効果が高まった

②「双方向性の情報交換」 
医師よりも看護師が行う方が効果が高まった

③「双方向性の選択肢の検討」 
看護師よりも医師が行う方が効果が高まった

・多職種連携による効果
看護師の定期外来診察への同席は医師のSDMの評価に影響を与える要因であり「患者にどの治療法を希望するかを聞く」という項目との因果関係が認められた。

<SDMによる帯状疱疹ワクチン接種勧奨の実際>

・興味がある患者さん
パンフレット配布+看護師による説明→医師とともに意思決定→接種
・興味がない患者さん
パンフレット配布→後日看護師によるFolow→興味があれば医師へ

<帯状疱疹とは>

・帯状疱疹の発症は近年増加している
・日本人成人の90%以上は帯状疱疹ウイルスが既に体内に潜伏している

・免疫力が低下すると誰でも発症する可能性があり生涯で1/3の人が発症する

・50歳代から発症が増加してくる

・体に帯状の痛みを伴う発疹が出る他、顔(目や耳)に出現することもある

・発症すると50代以降では約2割の方が「帯状疱疹後神経疼痛」を起こす

・50歳以上では帯状疱疹ワクチンで発症予防を行うという選択肢がある

<帯状疱疹ワクチンの種類と効果>

・シングリックスと水痘生ワクチンがあります。

・シングリックスは3年間で97%、10年間で89%と長期間に渡る予防効果がある

・シングリックスは年齢を問わずに予防効果がある

・シングリックスは2か月間隔で2回・筋肉注射を行う

・副作用は接種部位の痛みや腫れが半数以上でみられ2日程度持続する

・発熱が18%程度みられるが、1日程度で落ち着くことがほとんどである

・水痘生ワクチンは3年間で51%、7年間で予防効果がほぼ失われる

・水痘生ワクチンは80代での予防効果は18%/3.1年(中央値)と低値となる

・水痘生ワクチンは1回・皮下注射を行う

・副作用はシングリックスに比べると軽度
<行動経済学とバイアス>

従来の経済学では「人は合理的な行動をする」という前提のもと研究が行われてきた。しかし、人は時に感情や直感により合理的ではない判断や行動を行うことがある。無意識のうちに人は「バイアス」に捉われることで、合理的な判断を阻害されている。心理学的に観察された事実を経済学に取り入れていくアプローチを行動経済学という。

<予防接種勧奨のために知っておくと良いバイアス2つ>

①現在バイアス
人間は遠い将来将来の大きな利益よりも目先の損失を大きく見積もり、非合理的な選択を行う傾向がある。回避するには、時間軸を意識させること。

②現状維持バイアス
現状維持バイアスとは、変化を避けて現状維持を求める、現在の状況よりも好転するとわかっていても行動できない心理傾向のこと。

例)

行きつけのレストランに行き、いつも同じメニューを頼んでしまう

今の会社に不満はあるものの、転職せずに在籍し続ける

読まないメルマガを配信拒否せずに受け取り続ける

原因)

①選択の麻痺:心理負荷になる重大な選択肢に対し、新たな選択をしたくない

②損失回避:新たに得る利益よりも、損失を回避したいので、現状維持を選ぶ

③先行経験:過去に経験した選択にとらわれ、過去と同じ選択肢を選ぶ

④サンクコスト効果:今までかけてきた労力や費用にとらわれ、現状維持を選ぶ

⑤認識の不一致:過去に経験がない選択に対し、過去の経験をもとに判断する

・ワクチン忌避における現状維持バイアスと対策

高額なワクチン接種をするかどうか、とにかく今は考えたくない。(選択の麻痺)

新しいワクチンで新たな副作用が起こるのは嫌なので打ちたくない。(損失回避)

いままで帯状疱疹になったことがないので、きっと自分は大丈夫。(先行経験)

帯状疱疹にかかり、薬で何とかした。今更ワクチンは不要。(サンクコスト・認識不一致)

①現状維持バイアスを認識させる
「皆さんコロナワクチンからの接種疲れや、どうしても費用の面で接種を躊躇される気持ちはよく分かりますが」 と前置きを行う。
②メリットとデメリットを客観視させる
 [注射する]メリット:かからない デメリット:値段、副作用
[注射しない] メリット:お金かからない  デメリット:発症リスク

③少しずつ変化させる             
1)院内掲示 2)パンフレット配布 3)看護師の声掛け 4)医師の声掛け

④現状維持こそが失敗と認識させる

⑤数字やデータなどで客観視させる
帯状疱疹を発症すると生活維持が困難となるイメージを想起させる。

生涯発症1/3、50代以降PHN発症20%は決して対岸の火事でない。

<Value based Practive(VBP)>

問題となっている意思決定にとって適切な、共有された価値という枠組みにおけるバランスのとれた意思決定を支援すること。患者さん毎に異なる健康・金銭負担・医療行為に対する価値観を理解し、患者さん毎にアプローチを変えることが重要。


参考:価値に基づく診療 MEDSI 2016 p283

<まとめ>

・シングリックスは高い予防効果が長期間持続する不活化ワクチンである

・ワクチン接種率向上のためには、医師から患者への「ワクチンについての情報提供」と「接種の推奨」が重要である。

・Sheared Decision Making(SDM)とはbest research evidenceに基づき、患者と医療者が共に参加する共同意思決定である。

・SDMに基づく治療を行うためには、病状だけでなく、患者の環境、価値観、嗜好性などに基づき、医療者が想定される治療選択肢のメリット/デメリット(コスト面)を患者へ説明し共に考えていくという姿勢が重要である。

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