2型糖尿病とは
2型糖尿病とは血糖値を下げるインスリンというホルモンの分泌が低下したり、過食、運動不足などの生活習慣や肥満などにより、インスリンの効きにくくなることにより高血糖になる疾患です。わが国の糖尿病患者は平成9年度に行われた厚生省「糖尿病実態調査」によれば、糖尿病が強く疑われる人は690万人とも言われており、診断されていない方も含めると1000万人以上いると推定されています。2型糖尿病は発症初期は無症状であり、健診などで指摘される方が多いと思いますが、糖尿病は発症しまま放置すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こし、末期には失明したり透析治療が必要となることがあります。また脳心血管疾患の発症のリスクにもなります。
2型糖尿病の診断
血糖値とHgbA1c
2型糖尿病の診断基準を下記に示します。診断上最も重要なことは血糖値(空腹時)と過去1~2か月の血糖値を反映すると言われているHbA1cを併せて評価することです。Hb(ヘモグロビン)とは赤血球内にある全身に酸素を運ぶ役割があるたんぱく質で、ブドウ糖がヘモグロビンに結合すると糖化ヘモグロビンになります。HbA1cとは全てのヘモグロビンのうち、糖化ヘモグロビンがしめる割合です。
HbA1c(%)=糖化ヘモグロビン/全てのヘモグロビン(基準値:5.8以下)
糖尿病の診断基準
以下の3つのうちいずれかを満たす場合に糖尿病と診断します。空腹時血糖とHgbA1cが同時に高い、別の日に行った血糖値が高い、糖尿病の眼底所見がある、など複数の機会で糖尿病であることの再現性を確認する必要があります。
糖尿病型を2回確認する(1回は必ず血糖値で確認する)
糖尿病型
血糖値 | 空腹時≧126mg/dL |
---|---|
ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値 ≧ 200mg/dL | |
HbA1c | ≧6.5% |
- 別の日に行った検査で糖尿病型が2回以上認められれば、糖尿病と診断する。
- ただし、HgbA1cのみの反復検査による診断は不可とする。2回のうち1回は必ず、血糖値のいずれかで糖尿病を確認すること
- 血糖値とHbA1cが同一採血でそれぞれ糖尿病型を示すことが確認されれば、1回の検査だけでも糖尿病と診断する
糖尿病型(血糖値に限る)を1回確認+慢性高血糖症状の存在の確認
以下の条件のうちひとつがある場合、血糖値が糖尿病型を示していれば、1回の検査だけでも糖尿病と診断する。
- 糖尿病の典型的症状(口喝、多飲、多尿、体重減少)の存在
- 確実な糖尿病網膜症の存在
過去に「糖尿病」と診断された証拠がある
現時点の血糖値が糖尿病型の基準値以下であっても、過去に①もしくは2の条件が満たされた記録があり、糖尿病があったと判断される場合は糖尿病として対応する。
糖尿病診療ガイドライン2019 p5
例)
- 健診で空腹時血糖≧126mg/dL , HbA1c ≧ 6.5% → 「糖尿病」
- 健診でHbA1c≧6.5%を指摘 → 後日、空腹時血糖≧126mg/dL → 「糖尿病」
- 健診で空腹時血糖≧126mg/dL → 眼科で糖尿病網膜症を指摘 → 「糖尿病」
糖尿病の治療目標
血糖が高い状態が長年にわたり続くと動脈硬化が起こり、脳心血管病のリスクとなったり、腎不全(透析)や糖尿病網膜症(失明)のリスクにもなります。糖尿病治療の目標は血糖値をなるべく正常に近づけ、合併症を予防していくことにあります。血糖コントロールの目標値は年齢や合併症の有無により異なりますが、65歳未満の方の場合は、合併症予防の観点から少なくともHbA1c7.0未満を目標とします。また、糖尿病の重要な合併症として「糖尿病性網膜症」があります。糖尿病と診断されたら必ず眼科に受診しましょう。糖尿病網膜症は血糖コントロールとは無関係に悪化することもありますので、定期的な受診をおすすめします。また、50歳を超えている方につきましては、膵臓の悪性腫瘍の有無をみるために検査をおすすめしております。
糖尿病の管理目標
食事療法
2型糖尿病の食事療法で大切なポイントは、適切なエネルギー摂取量を守ること、間食を避けること、バランスの良い食事を心がけることです。
BMIと適正体重
BMI(ボディマスインデックス)は(体重÷身長÷身長)で算出される肥満度を表す指数です。日本肥満学会の判定基準では、BMIが18.5~25を普通体重とし、25以上を肥満としています。適正体重はBMI×22で求められ、最も病気になりにくい体重とされています。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
適正体重(BMI 22)=身長(m)×身長(m)×22
1日エネルギー摂取量
適正体重(BMI=22)を求めたら、身体活動量を目安に適切なエネルギー摂取量を計算します。仕事内容等によって軽労作、普通労作、重労作と分けて計算を行います。
エネルギー摂取量(Kcal)= 適正体重 × 身体活動量
身体活動量の目安
軽労作 | デスクワーク | 25~30kcal |
普通労作 | 立ち仕事 | 30~35kcal |
重労作 | 力仕事 | 35kcal~ |
例)身長160cm 軽労作(デスクワーク)の場合
エネルギー摂取量(Kcal)= 1.6×1.6×22×25~30(kcal) = 1400~1700 (kcal)
エネルギー比率
炭水化物:タンパク質:脂質=50%:30%:20%を目安に食事をとりましょう。
間食を避け、3食均等に食べる
糖尿病は血糖値を下げるインスリンというホルモンが相対的に欠乏しているため、間食をすることで血糖値が上がってしまいます。また、1日1食や2食とすると過食になり、食後高血糖を引き起こします。食後の血糖値の上昇を緩やかにし、血糖値が低い時間帯を作るためにも、間食を避け、目標とするエネルギー摂取量に従って3食均等にとるように心がけましょう。
飽和脂肪酸を控え、不飽和脂肪酸を多めに
動物性脂肪をはじめとする飽和脂肪酸の摂取量を控え(総エネルギー比7%未満)、魚類に含まれる不飽和脂肪酸の摂取を増やしましょう。
飽和脂肪酸 | 乳製品、動物性脂肪、パーム油 | ||
---|---|---|---|
不飽和脂肪酸 | 多価不飽和脂肪酸 | n-3系 | EPA, DHA(魚油) |
n-6系 | リノール酸(大豆油、ごま油) | ||
一価不飽和脂肪酸 | オレイン酸(オリーブ油、紅花油) |
野菜、果物、海藻類、大豆製品の摂取を増やす
バランスのとれた食事が基本です。野菜、果物、海藻類、大豆製品を食事に多く取り入れましょう。
節酒
純エタノール量で20gを目安に行うとよいでしょう。
アルコールの適量
ビール(度数5%) | 20ml ÷ 0.05 = 400ml(350ml, 500ml缶1本) |
---|---|
日本酒(度数15%) | 20ml ÷ 0.15 = 130ml(1合=180ml) |
ワイン(度数15%) | 20ml ÷ 0.15 = 130ml(ワイングラス1杯=125ml) |
ウイスキー(度数40%) | 20ml ÷ 0.15 = 130ml(ワイングラス1杯=125ml) |
運動療法
運動には有酸素運動(ウォーキングなど)と無酸素運動(筋トレ)があります。どちらか片方だけではなく、両方組み合わせて行うことが効果的です。
*初めて糖尿病を指摘され、血糖値のコントロールがまだついていない方は、運動強度について必ず主治医と相談してください。
有酸素運動
脂質代謝の改善には有酸素運動を行います。最大酸素摂取量50%程度の運動強度の運動を1日30分以上、週3回以上(できれば毎日)行うことが推奨されます。
☆目標心拍数=138-年齢/2(拍/分)
例)
40歳女性の目標心拍数=138-40/2 = 118/分
*ウォーキングの場合は「少し物足りない」「楽~ややきつい」程度
レジスタンストレーニング(筋トレ)
筋肉内に脂肪が蓄積した状態を「脂肪筋」といい、加齢、肥満、運動不足などが原因で起こります。脂肪筋は血糖値を下げるインスリンというホルモンの効きを悪くすること(インスリン抵抗性)が知られており、脂質代謝や血糖にも悪影響を及ぼします。レジスタンストレーニング(筋トレ)は筋肉に負荷をかけて行う運動のことをいいます。レジスタンストレーニングを行うことにより、筋内脂肪を低下させ、インスリン抵抗性を改善させることにより血糖や脂質代謝へより影響が期待されます。トレーニングジムや、ダンベルなどを使ったトレーニングも良いですが、自宅内で出来るスクワットや腹筋などの自重負荷レジスタンストレーニングも効果的です。出来る範囲で構いませんので、有酸素運動と組み合わせて行ってみましょう。
禁煙
喫煙は直接脳心血管病リスクを増加させ、癌や呼吸器疾患(肺気腫など)などの原因にもなります。ぜひ糖尿病の治療と一緒に禁煙も行いましょう。
薬物治療
薬物治療には大きく分けて、内服薬と注射薬(インスリン)があります。当院では糖尿病の内服加療を行っておりますが、インスリン注射が必要な糖尿病患者さんにつきましては、糖尿病専門医による管理が望ましいと考えており、専門医療施設へのご紹介を行っております。
低血糖を起こさないこと
より強力に血糖を下げる薬を使用すれば、血糖コントロールは改善します。しかし、血糖コントロールによる大血管症抑制効果を検証するために行われた臨床試験において、標準治療と強化療法で比較を行ったところ、強化療法群で総死亡率が高く、低血糖が死亡率増加と関連していることが疑われました。このため、現在では低血糖を起こさない管理が推奨されております。
インスリン分泌能とインスリン抵抗性
2型糖尿病が起こるメカニズムとして、インスリンが少ないこと(インスリン分泌能の低下)、インスリンの効きが悪いこと(インスリン抵抗性)が複合して起こっていると考えられます。そのため、どちらの要素がより強いかにより薬物を選択するとより効果的です。空腹時血糖とインスリン値から、インスリン抵抗指数とインスリン分泌指数を求めることが出来ます。
HOMA-R(インスリン抵抗性指数)
- 空腹時血糖値 × 空腹時インスリン値 / 405
- インスリン抵抗性(効きにくさ)を表します。
- 1.6以下で正常、2.5以上で高値
HOMA-β(インスリン分泌能指数)
- 空腹時インスリン値×360/(血糖値-63)
- インスリン分泌能を表します。
- 30%以下で分泌能低下
糖尿病内服薬
先ほどご説明させていただいた、「インスリン抵抗性」を改善させる薬、「インスリン分泌を促進」させる薬、そして最近発売された新しい機序の薬の3つに分類しご説明します。治療の目的は低血糖を起こさずに血糖コントロールを改善させることですが、単剤で心血管イベント発症のリスクを抑制させ、腎不全進行を抑制させるSGLT2阻害薬や、心血管イベント発症のリスクを抑制させ、食欲抑制により体重減少効果があるGLP-1受容体作動薬などが使用可能となっており、将来の腎・心血管リスクを予防するという観点から薬剤を選択する機運が高まっていると言えます。年齢や肝腎障害により使用しづらい薬もありますので治療開始時には血液検査による評価が必要です。
インスリン抵抗性を改善させる薬
ビグアナイド(メトホルミン)
- 肝臓からのブドウ糖放出抑制と末梢組織でのインスリン感受性促進作用を持つ
- 中性脂肪やLDLコレステロールを下げる効果がある
- 主な副作用:胃腸障害、乳酸アシドーシス(脱水時)
チアゾリジン(ピオグリタゾン)
- 肝臓からのブドウ糖放出抑制と末梢組織でのインスリン感受性促進作用を持つ
- 中性脂肪を下げ、HDL-C(善玉コレステロール)を上昇させる効果がある
- 主な副作用:浮腫(むくみ)
インスリン分泌を促進させる薬
DPP-4阻害薬
- 血糖値に依存して食後インスリン分泌を促進し、食後高血糖を改善する。
- インスリン分泌促進薬の中では最も低血糖を起こしにくく、安全性が高い
即効型インスリン分泌促進薬(グリニド)
- 膵臓よりインスリン分泌を促進させる
- 作用発現時間が早く、作用時間が短い
- 食直前に内服する
- 主な副作用:低血糖(肝腎機能が悪い場合は慎重投与)
スルフォニル尿素薬(SU薬)
- 膵臓よりインスリン分泌を促進させる
- 血糖降下作用が強く、低血糖を起こしやすい
- 主な副作用:低血糖(肝腎機能が悪い場合は使用しない)
その他(新しい薬)
SGLT2阻害薬
- 尿へのブドウ糖排泄を増加させ血糖値を下げる
- 心血管イベント発症リスクを抑制(心血管イベント発症リスクの高い患者)
- 慢性腎不全進行を抑制
- 心不全による入院イベントを抑制
- 体重を減少させる
- 低血糖を起こしにくい
- 主な副作用:性器感染症(カンジダ)、脱水、炭水化物制限によるケトーシス
GLP-1受容体作動薬
- 血糖値に依存して食後インスリン分泌を促進し食後高血糖を改善させる
- 低血糖のリスクが少ない
- 体重を減少させる(食欲抑制作用)
- 大血管症の発症を抑制(心血管イベント発症リスクの高い患者)
- 主な副作用:消化器症状
院長からのメッセージ
糖尿病自体には症状がほとんどありませんが、動脈硬化を引き起こし、将来の脳心血管病のリスクとなってしまいます。糖尿病治療の目的は動脈硬化を予防し、将来のリスクを減らすことです。薬を内服されることに抵抗を感じる方も多いと思いますが、まずは血糖を最適な状態に維持することを優先し、生活習慣の修正を通じて少しでも薬を減らすことが出来るように(中止出来るように)、一緒に頑張りましょう。