高血圧

高血圧とは

高血圧は血圧が高い状態をいいます。現在わが国おいて高血圧の方は4300万人と推定されており、決して珍しい病気ではありません。しかし適切に血圧がコントロールされているのは1200万人、自分が高血圧であるか知らない方が1400万人、知っていながらも治療がされていない方が450万人、治療をしていても目標に達していない方が1250万人と試算されています。健康診断や病院の待合、フィットネスなどで測定した際に高血圧を指摘され受診される方も多いのではないでしょうか。高血圧は治療が勧められるべき病気ですが、症状はほとんどありません。それでは高血圧の治療する目的はどこにあるのでしょうか。

高血圧は脳心血管病リスク

心臓から拍出された血液は、血管を通じて脳や心臓、腎臓など主要な臓器に血流を送っていますので、血管にかかる圧力(=血圧)は臓器に血流をおくるために必要なものです。血管はゴムホースの様な構造をしていますが、長年に渡り高い圧(高血圧)が続くとホースの壁がやがて硬くなり劣化をしてしまいます。この状態が「動脈硬化」です。動脈硬化は血管のつまり(梗塞)や亀裂(出血)を引き起こしその結果、脳出血、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全など重大な疾患のつながってしまいます。高血圧以外にも、脂質異常症(高コレステロール血症)、糖尿病、喫煙も動脈硬化のリスクとなります。高血圧に対し、降圧薬による治療を行い、収縮期血圧が10mmHgまたは拡張期血圧が5mmHg低下すると、主要な心血管疾患が約20%、脳卒中が約30-40%、全死亡が10-15%も低下することが報告されています。

高血圧の診断

それではどのくらいの血圧だと治療すべきなのでしょうか?
診察室の血圧と、家庭血圧に分けて確認してみましょう。

血圧の正常範囲

正常範囲の血圧は、診察室で130/80 mmHg以下、家庭で125/75 mmHgと覚えておくと良いと思います。(110~120/60~70 mmHg程度が理想の血圧となります。)

高血圧

高血圧は、診察室で140/90 mmHg以上、家庭で135/85mmHg以上となります。

高値血圧

正常値と高血圧のちょうど中間である、診察室で130-140/80-90 mmHg、家庭で125-135/75-85 mmHgの方を正常高値血圧、高値血圧といいます。

まとめますと、高血圧に該当する方(診察室血圧140/90以上,家庭血圧135/85以上) が治療対象となり、治療目標として血圧の正常範囲(診察室血圧130/80以下,自宅血圧125/75以下)を目指すことになります。その中間である高値血圧(診察室血圧130-140/80-90, 自宅血圧 125-135/75-85)の方は生活習慣の見直しを行うことが推奨されます。

  診察室血圧 家庭血圧 方針
正常範囲 130/80以下 125/75以下  
高値血症 130‐140/80-90 125-135/75-85 生活習慣の見直し
高血圧 140/90以上 135/85以上 治療対象

JSH2019を参考に筆者作

75歳以上の方

75歳以上の方については、血圧の下がり過ぎによるふらつきや転倒のリスク、動脈硬化予防効果と安全性のバランスを考える必要があります。治療目標として診察室血圧で140/90以下、家庭血圧で135/85以下とやや緩めの管理が推奨されます。

白衣高血圧と仮面高血圧

家庭血圧は正常範囲ですが、診察室で測定すると血圧が高いという方を「白衣高血圧」といいます。白衣高血圧は診察室血圧で高血圧と診断された患者さんの15-30%に存在し、年齢により増加すると言われています。血圧が正常範囲の方と比較すると脳心血管病リスクがやや高く、持続性高血圧への移行も報告されていています。一方、診察室での血圧は正常範囲ですが、自宅血圧が高いという方を「仮面高血圧」といいます。仮面高血圧は血圧が正常範囲の方と比較して脳心血管病リスクが高く、持続性高血圧の方と同等のリスクと考えられていますので、積極的な治療が推奨されます。

早朝高血圧

仮面高血圧と同様に、診察室での血圧が正常範囲で、早朝に測定した家庭血圧が高値の場合を「早朝高血圧」といいます。早朝高血圧には夜間から早朝にかけて高血圧が持続するタイプと、早朝だけ急峻に血圧が上がるタイプがありますが、いずれも脳心血管病リスクとなりますので積極的な治療が推奨されます。高血圧で既に内服治療が行われている場合は診察室や日中の血圧が高くなくても、早朝血圧が正常範囲に近づくことを目標として治療を行います。

2次性高血圧

血圧上昇を起こす他の病気があり高血圧となることを「2次性高血圧」といい、原因がないものを「本態性高血圧」といいます。2次性高血圧が疑われる場合は疑われる疾患に応じて必要な検査を行い、原因疾患が見つかった場合はそちらの治療を優先して行います。

※この表は横にスクロールできます。

2次性高血圧を起こす疾患 検査
睡眠時無呼吸症候群 簡易型睡眠時無呼吸検査
原発性アルドステロン症 血液検査、CT
腎血管性高血症 血液検査、CT
甲状腺機能亢進症 血液検査、エコー
褐色細胞腫 血液検査、尿検査
腎臓病 血液検査、尿検査

筆者作

血圧の測定

診療所や病院では自動血圧測定器や、診察室で看護師や医師が血圧を測定しますが、高血圧と言われたら家庭でも血圧を測定してみましょう。起床時のみ見られる早朝高血圧や診察室以外でみられる仮面高血圧などでは家庭血圧の測定が不可欠です。血圧計で市販されているものには手首にまくタイプと、上腕にまくタイプがあります。診療所などでは上腕にまくタイプが推奨されていますが、家庭で測定する場合はどちらの血圧計を用いても構いません。ただし、血圧は測定する時間により変動しますので、測定する条件を一定にするようにしましょう。

血圧の測定方法

  • 朝(起床後)と晩(就寝前)に2回測定することが望ましい。
  • 朝の血圧は必ず測定する。(早朝高血圧の可能性があるため)
  • 起床後、トイレを済ませた後に座位1-2分の安静後に測定する。
  • 血圧を測定する前に薬は飲まない。
  • 2回測定し、その平均を血圧値として記録する。
  • 血圧を測定するときの腕の高さは心臓の位置と同じくらいにする。

生活習慣の修正

生活習慣の修正は、高血圧予防だけでなく薬物治療開始後も重要であると言われています。減塩だけでなく、バランスの取れた食事、減量、節酒、禁煙なども複合的に行うことが勧められます。

  1. 食塩制限6g/日未満
  2. 野菜・果物の積極的摂取
    飽和脂肪酸、コレステロールの接種を控える
    多価不飽和脂肪酸、低脂肪乳製品の積極的摂取
  3. 適正体重の維持:BMI(体重【kg】÷身長【m】2)25未満
  4. 運動療法:軽強度の有酸素運動(動的および静的筋肉負荷運動)を毎日30分、または180分/週以上行う
  5. 節酒:エタノールとして男性20-30ml/日以下、女性10-20ml/日以下に制限する
  6. 禁煙

引用:JSH2019 p64 表1

減塩

日本人の食塩摂取量は徐々に低下傾向にあるものの、平成29年の国民健康・栄養調査では男性10.8g/日, 女性9.1g/日と報告されています。一方、本邦の高血圧ガイドラインでは塩分摂取量を6g/日以下にすることを目標としています。塩分摂取量が多い方だと約半分に減量しないと達成出来ない目標値です。多くは加工食品からの摂取と言われていますので、まずは普段どんな食品からどのくらいの塩分を取っているのか把握することが大切です。味付けを薄くするのが難しい方は、汁物を残し具だけ食べる、漬物を避ける、そもそも量を食べ過ぎない(減量にもつながります)、などを工夫してみましょう。

節酒

お酒を適量にするのも高血圧の治療上、重要です。アルコール適量の目安として男女問わず「エタノール20ml/日」と覚えておきましょう。以下に酒別の適量を求める計算例をご紹介します。

※この表は横にスクロールできます。

ビール(度数5%) 20ml ÷ 0.05 = 400ml(350ml, 500ml缶1本)
日本酒(度数15%) 20ml ÷ 0.15 = 130ml(1合=180ml)
ワイン(度数15%) 20ml ÷ 0.15 = 130ml(ワイングラス1杯=125ml)
ウイスキー(度数40%) 20ml ÷ 0.15 = 130ml(ワイングラス1杯=125ml)

筆者作

禁煙

喫煙は血圧上昇を引き起こし高血圧の原因となります。また喫煙は高血圧を介してだけでなく、直接脳心血管病リスクを増加させ、癌や呼吸器疾患(肺気腫など)などの原因にもなります。ぜひ血圧の治療とともに禁煙も行いましょう。

高血圧の薬物治療

降圧薬には様々な種類がありますが、第一選択薬として用いられるのはCa拮抗薬、ARB、ACE、利尿薬という4種類の降圧薬です。降圧薬開始時は、血圧が急激に下がらないように少量より開始し、2週~4週毎に血圧を見ながら降圧薬を調節していきます。患者さんによっては1回で目的とする血圧まで下がる方もいれば、2~3回程度の調整を要する方もいらっしゃいます。1剤で血圧がコントロール出来ない時は複数の併用を行います。また複数の成分を内服する必要がある場合は、負担感なく内服出来るように配合剤を処方します。それぞれ積極的な適応、禁忌、慎重投与となる病態があります。利尿剤を含む一部の降圧薬では定期的な血液検査による副作用チェックが必要です。

主な降圧薬一覧

主要降圧薬の積極的適応

※この表は横にスクロールできます。

  Ca拮抗薬 ARB/ACE阻害薬 サイアザイド系利尿薬 β遮断薬
左室肥大    
心収縮能の低下した心不全  
頻脈 ●*(非ジヒドロピリジン系)    
狭心症    
心筋梗塞後      
蛋白尿/微量アルブミン尿を有する慢性腎臓病      

JGL2019 p76 表5-1 一部改変し引用

院長からのメッセージ

高血圧自体には症状がほとんどありませんが、動脈硬化を引き起こし、将来の脳心血管病のリスクとなってしまいます。高血圧の治療の目的は動脈硬化を予防し、将来のリスクを減らすことです。降圧薬を内服されることに抵抗を感じる方も多いと思いますが、まずは血圧を最適な状態に維持することを優先し、生活習慣の修正を通じて少しでも薬を減らすことが出来るように(中止出来るように)、一緒に頑張りましょう。

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