鼻が原因の咳
「上気道咳症候群」

上気道咳症候群とは

鼻がのどに垂れ込むこと(後鼻漏)が原因で起こる咳のことを「上気道咳症候群」といいます。後鼻漏による咳はのどの神経を刺激したり、後鼻漏の気管への流入による刺激が原因で起こると考えられています。またアレルギー性鼻炎や好酸球性副鼻腔炎などのアレルギー疾患は下気道(気管支)との関係が深く、鼻疾患があることで気道が過敏となることも知られています。後鼻漏は「鼻の奥に何か流れる感じ(後鼻漏感)」として自覚されることもありますが、自覚されないこともあります。多くは痰がらみの咳や咳払い感が繰り返されることが特徴で、横(臥床)になると悪化することが特徴です。後鼻漏を引き起こす疾患には以下のようなものがあります。

後鼻漏の原因となる代表疾患

アレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎はアレルギーが原因で起こる鼻炎で、「鼻汁」「鼻づまり」「くしゃみ」を3大症状とする病気です。近年増加傾向にあり、国民の約40%がかかっているとも言われ、まさに現代の国民病となっています。増加している背景としては生活環境の変化や食生活の変化、ストレスなどの可能性が指摘されています。スギやヒノキなど、季節性の花粉で起こるものを「季節性アレルギー性鼻炎」、ダニやほこりなど、通年性抗原が原因で起こるものを「通年性アレルギー性鼻炎」といいます。アレルギー性鼻炎が原因で起こる後鼻漏・咳に対し、抗ヒスタミン薬による治療や点鼻ステロイドによる治療が行われます。

副鼻腔炎

副鼻腔は鼻の中とつながる空洞ですが、かぜなどを契機に副鼻腔に膿が溜まった状態のことを副鼻腔炎といいます。特に副鼻腔炎が3か月以上続いた状態を慢性副鼻腔炎といいます。鼻腔の観察による診断の他、膿副鼻腔のX線写真を撮影し診断を行うこともあります。治療は、抗生剤(急性と慢性では使用する薬が異なります)、去痰薬の他、副鼻腔炎の排出口を解除する目的で点鼻ステロイドや鼻うがいなどを行います。これらの治療に反応しない場合には手術(ESS)が行われることもあります。

通常型の副鼻腔炎は上顎洞に起こることが多いですが、好酸球性副鼻腔炎は篩骨洞に起こります。

向かって右側(患者さんの左側)の上顎洞が白くなっており、副鼻腔炎(上顎洞炎)を起こしていることが分かります。

副鼻腔炎の抗生剤選択

急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎では薬剤選択による考え方が異なります。慢性副鼻腔炎に対する抗生剤投与はマクロライド少量投与という方法を用いて行われます。これは殺菌を意図して行われるものではなく、抗炎症作用を期待して行われる治療です。一方、急性副鼻腔炎は感染が原因で起こる疾患です。肺炎球菌、インルルエンザ桿菌、モラキセラの3菌種が原因菌として代表的ですが、マイコプラズマを除き市中肺炎検出菌と一致しています。抗生剤はこれらの検出菌を目的とし投与します。

各菌種の薬剤感受性を参考に抗生剤を選択することになりますが、初期治療において3菌種をカバー出来る抗生剤としては、メイアクト、フロモックスなどのセフェム系抗菌薬とレスピラトリーキノロン系抗菌薬が挙げられます。インフルエンザ桿菌には感受性が不良ですが、オーグメンチン+サワシリンという組み合わせは肺炎球菌、モラキセラに効果があります。ガイドラインを参考に抗生剤を選択する場合、初期治療として推奨されているAMPC高用量や重症例で推奨されているAZM(ジスロマック)は薬剤感受性が不良であり他剤を優先し使用するべきだと考えます。AMPC高用量の代わりに抗生剤を選択するのであればCVA/AMPC高用量(オーグメンチン+サワシリン)を選択するか、セフェム系抗生剤(メイアクト、フロモックス等)を選択することになります。

好酸球性副鼻腔炎

副鼻腔炎の分類として「急性と慢性」以外に「鼻ポリープを伴う/伴わない」「好中球性/好酸球性」「上顎洞優位/篩骨洞優位」があります。好酸球性副鼻腔炎は、篩骨洞に起こりやすく、鼻ポリープを伴うことが多い副鼻腔炎で、国が定める指定難病です。アスピリン不耐症や気管支喘息の合併も多く、手術を行っても再発しやすいこと、嗅覚が低下~消失しやすいことが特徴です。治療は点鼻ステロイドやステロイドの内服、手術が行われますが再発しやすいため、難治例ではデュピクセントという注射薬を用いて治療が行われます。

鼻が原因の咳「上気道咳症候群」 まとめ

鼻が喉に落ちること(後鼻漏)による咳である上気道咳症候群は、長引く咳の原因として多くを占めます。症状としては鼻汁や鼻閉、鼻が喉に落ちる感じ(後鼻漏感)、嗅覚の低下が疑うきっかけとなり、横(臥床)になると悪化します。注意深い問診に加え、副鼻腔X線や副鼻腔CTによる検査を行い診断します。治療は点鼻薬や抗アレルギー薬、抗菌薬による治療の他、保存的加療で改善しない場合には外科的処置が必要となることもあり、必要に応じて耳鼻科へご紹介させて頂きます。

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