小児喘息とは
小児喘息は、気管支がせまくなることにより、喘鳴(ぜんめい:ぜーぜー、ヒューヒューすること)や咳、たん、呼吸困難を繰り返す病気で、「かぜ」「天気」「季節の変わり目」などで悪化することが特徴です。アレルギーにより気道が過敏になることで起こっていると考えられます。
小児喘息はアレルギーが原因で起こりますが、特定の「遺伝因子」と「環境因子」が互いに作用しあって発症すると言われています。アレルギーとは体の中に入ってくる異物(アレルゲン)を体の外に追い出すための過剰な防衛反応のことです。アレルギー性の炎症が気道で起こると、やけどしたあとのようにヒリヒリした状態(気道過敏)になります。気道過敏になっても普段は症状がありませんが、「かぜ」「天候」「季節の変わり目」をきっかけに気管支がせまくなり、ゼーゼー、ヒューヒューし、呼吸が苦しくなることを「ぜんそく増悪」といいます。
病態や治療の考え方の違いから、5歳以下の「乳幼児喘息」と6歳以上の「学童期喘息」に分類されます。
- 小児喘息は「遺伝要因」と「環境要因」が合わさって起こる
- 5歳以下を「乳幼児喘息」、6歳以上を「学童期喘息」という
乳幼児喘息(5歳以下の喘息)
乳幼児は、気道内径がせまく、気管支の筋肉が少なく、肺がやわらかいなどの特性から、容易に気道狭窄を起こしやすいという特徴があります。感冒を契機に一時的に喘鳴を来すことも多くあり、「一過性喘鳴」といい、喘息と区別が難しいことがあります。そのため診断上重要視されているのは喘鳴を繰り返す「反復性喘鳴」です。明らかな喘鳴を3エピソード以上繰り返し、治療薬(気管支拡張薬や吸入ステロイドなど)により改善する「診断的治療」をもって喘息と診断します。また、アトピー素因をもつ乳幼児アトピー型喘息の多くは、学童期以降も継続することから、ダニなどの吸入抗原を含むアレルゲン検査を行うことが重要です。
- 乳幼児には感冒を契機にゼイゼイする「一過性喘鳴」がある
- 乳幼児喘息は「反復性喘息」と治療薬が奏功する「診断的治療」で診断を行う
- アトピー素因を持つ「乳幼児アトピー型喘息」は学童期以降の喘息へ移行することが多く、ダニなどの吸入抗原を含むアレルゲン検査を行うことが重要である
学童期喘息(6歳以上の喘息)
学童期以降の小児喘息はアトピー型(IgE)陽性の乳幼児喘息からの移行例が多くみられますが、アトピー型(IgE)陰性の小児喘息も見られます。アトピー型陰性の小児喘息は学童期以降に治癒することが多いと考えられています。一方、アトピー型(特にダニ抗原)陽性の小児喘息は成人喘息への移行や、成人での喘息再発症が多く注意が必要です。また小児期に慢性的な気道炎症や増悪を繰り返すなど、喘息コントロールが不良であると、将来の肺の成長不全が起こると考えられており、症状がなくても定期的な治療による予防的な治療が重要と考えられます。
- アトピー型(ダニ抗原)陽性の場合、成人への移行に注意が必要
- アトピー型陰性の場合は、学童期以降に自然治癒することが多い
- 小児期の喘息コントロールは肺の成長不全につながるため定期的な治療が望ましい
小児喘息患者の自然転帰
~小児喘息は成長とともに治るの?~
当院にいらっしゃるご両親よりよく質問を受けるのが「小児喘息は成長とともに治るのか?」です。小児喘息患者の自然転帰を調べた研究によれば、小児喘息のうち約50%は成人時点で治癒しており、50%はそのまま成人喘息へ移行、もしくは成人喘息として再発症していたと言われています。ここで注目したいのは小児喘息がアトピー型(ダニ抗原)陽性か陰性かという点です。非アトピー型は小児期(学童期以降)に治癒することが多く、アトピー型(ダニアレルゲン陽性)では成人喘息への移行もしくは再発症が多いと考えられています。従ってダニアレルゲン陽性の小児喘息は、後述するダニ舌下免疫療法を行うことで根治性が得られるとする報告もあり、治療選択肢の1つとして考慮するとよいでしょう。
ダニアレルゲン陽性の小児喘息に対する効果
ダニアレルギー性鼻炎および喘息を罹患している小児に対しダニ舌下免疫療法を行うと、治療終了時(5年後)、および10年後に喘息を罹患していた患者の割合が大幅に減少したことが報告されています。ダニアレルゲン陽性の小児喘息に対しダニ舌下免疫療法を行うことで根治性が期待できる可能性があり、当院では積極的に推奨しています。
ダニ舌下免疫療法は新たなアレルゲン感作を抑制する
成人を対象とした研究ですが、舌下免疫療法を5年間行うことで将来的に新たなアレルゲン感作を起こす頻度を15年で100%→10%へ低減させたと報告されています。新たなアレルゲン感作を防ぐことは、将来の新たなアレルギー疾患を予防することにもつながると考えられます。
小児喘息のよくある質問
小児喘息:症状がなくなっても治療は続けるべき?
これもご両親からよく頂くご質問となりますのでお答えしたいと思います。定期的に治療を行う場合と症状がある時だけ治療する場合に分けて、それぞれのメリットとデメリットを説明します。大事なことはお子さんの喘息が「アトピー型(ダニ陽性)」か「非アトピー型(ダニ陰性)」かになります。まずはじめに「アトピー型(ダニ陽性)」の小児喘息について考えてみたいと思います。
アトピー型(ダニ陽性)小児喘息では喘息治療を続けるべき?
アトピー型(ダニ陽性)小児喘息では多くは成人喘息への移行もしくは成人で再発症すると考えられます。そのため、幼少期からの喘息の経過は将来の成人喘息へ影響すると考えられます。症状がある時だけ治療を行うデメリットは何でしょうか?それは「気道リモデリング」です。「気道リモデリング」とは喘息の増悪を繰り返すことにより、気管支が硬く・狭くなってしまうことをいいます。症状がある時だけの治療の場合、喘息コントロールが不十分となり、増悪を繰り返すことで将来の「肺の成長不全」と、成人移行後の喘息の重症化につながるため注意が必要です。定期的に喘息治療を行った上で5才以降ではダニ舌下免疫療法による体質改善を行うとよいでしょう。
短期的にみれば症状がある時だけ治療を行うでも問題ないように思えるかもしれません。しかし長期的(10-20年)にみると、「肺の成長不全」や「気道の老化」により成人喘息への移行および喘息の重症化が起こる可能性があります。症状がなくても定期的に治療を行うことはこのような将来のリスクを予防することにつながるのです。
気管支の伸び縮みやアレルギー炎症が繰り返されると、気管支が徐々に硬く・せまくなりますが、小児では「肺の成長不全」、成人では「病的な老化」の原因となります。肺機能が低下すると、将来喘息が重症化して治療薬が効きにくくなったり、日常生活や仕事に影響が出ることもあります。(喘息重症化による将来のリスク)
5才を過ぎたら、ダニ舌下免疫療法(ミティキュア)の適応を検討しましょう。ダニ舌下免疫療法(ミティキュア)を行うことの目標は「ぜんそくの体質改善」です。3~5年と時間はかかりますが治療薬を減量し可能であれば中止を目指します。
非アトピー型小児喘息では喘息治療を続けるべき?
非アトピー型の小児喘息では、多くは学童期以降に自然治癒すると考えられています。ただし治癒が得られる時期はお子さんの成長により幅がありますので、成長とともに喘息の増悪が起こらなったタイミングで治療を卒業するとよいでしょう。また小児期の喘息増悪を繰り返すことにより「肺の成長不全」につながる可能性もあることから、成長とともに喘息の治癒が得られるまでは定期的に治療を行いながら、徐々に減薬していくことがおすすめです。
短期的にみれば症状がある時だけ治療を行うでも問題ないように思えるかもしれません。しかし長期的(10-20年)にみると、小児期の繰り返すぜんそく増悪は将来の「肺の成長不全」につながる可能性があります。
気管支の伸び縮み(ぜんそく増悪)が繰り返されると、気管支が徐々に硬く・せまくなり将来の「肺の成長不全(リモデリング)」の原因となります。肺の成長不全(リモデリング)を予防するためには、症状がなくても定期的に治療を行い、ぜんそくが学童期以降に治癒するまでは増悪を予防することが大切です。
小児喘息の治療管理
小児気管支喘息治療・管理ガイドラインでは長期管理を行う上での治療目標として、①症状②呼吸機能③QOL(生活の質)の3つを挙げています。治療を行う上では病状の適切な評価が必要です。当院では診察毎に患者さんによる喘息評価のための問診票(JPAC)、問診による自覚症状(咳・痰・鼻)やQOL(運動や学校生活の状況)の評価に加え、診察所見(聴診)、検査(アレルゲン検査、呼気NO検査、呼吸機能検査)、ピークフローメータによる管理を行っています。通院はおおよそ1~2か月毎、治療の見直しは概ね3か月毎に行い、治療薬の減量が可能と判断される場合は減薬していきます。また、アレルゲン検査の結果、通年性抗原(ほこり、ダニ)が陽性の場合は寝具回りなどを中心とした掃除を行い、5歳を超えた場合はアレルゲン免疫療法による治療をおすすめしています。季節性抗原(花粉など)が陽性の場合は、花粉シーズンより少し前から薬物治療を開始することが悪化を防ぐ方法となります。診察時に生活環境の調整についてもゆっくり丁寧にご説明させて頂きます。
生活指導と環境対策
ハウスダスト(ダニ)対策
ダニは高温多湿環境下で繁殖し、特に寝具周りのお手入れが重要です。掃除機をしっかりかけ、こまめな換気を心がけましょう。
花粉症対策
スギ花粉をはじめ、季節の花粉はアレルギー性鼻炎や喘息悪化の原因となります。花粉症対策を行い、悪化する前に早めの治療を行いましょう。
感染予防対策
喘息増悪のきっかけの多くは感冒(ウイルス感染)と言われています。感染予防を行い、風邪を引かないようにしましょう。
小児喘息コントロールテスト(JPAC)
自宅でご記入いただいたものをご持参いただくか、クリニックの受付で記入します。過去1か月間の症状を聞く問診票で、最高15点満点となります。
小児喘息の検査
アレルゲン検査
小児喘息に対し、主にダニなどの吸入抗原に対するアレルギーを調べるために行います。当院では、お子様に対する侵襲性と調べる項目の必要性を考え、指先から検査を行い、20分以内に結果が判明する「イムノキャップラピッドアレルゲン」をおすすめしています。
(食物抗原が必要な場合などは、通常通りの血液検査が必要です。)
イムノキャップラピッドアレルゲン8
IgE抗体検査は5~10ml程度の血液を必要とするため、血管から採血をする必要があります。また外の検査会社さんに検体を提出する外注検査になりますので、結果も即日お返しすることは出来ません。一方、迅速検査であるイムノキャップラピッドは0.1mlの採血量で検査可能であり、指先から検査が可能で結果も約20分で判明します。特に血管がわかりにくく安静することが難しい小さなお子さん(3才以下)でも検査出来ることが特徴です。検査項目は「スギ」「ダニ」「ブタクサ」「カモガヤ」「ヨモギ」「イヌ」「ネコ」「シラカンバ」の8項目 に限られますが、主に「スギ」や「ダニ」など項目を絞って検査を行うには有用な検査といえます。
引用:サーモフィッシャーダイアクノスティックス株式会社
呼吸機能検査(スパイロメトリー)
息を吸ったり吐いたりして、肺の機能を調べる検査です。日常診療では、主に「安静呼吸」と「努力呼吸」の2つをみる検査が行われます。
呼吸機能検査の主な評価項目
- 「努力性肺活量」:肺の大きさ
- 「1秒量」:1秒間で吐ける息の量(気管支の狭さ)
- 「1秒率」:「1秒量」/「努力肺活量」
このうち、診断に重要なのは「1秒率」です。肺の大きさ(肺活量)には個人差がありますので、ご自身の肺の大きさ(努力肺活量)に対し、どれだけ気管支が狭いか(1秒量)を表す指標と考えて頂ければよいと思います。小児喘息の場合、1秒率が80%を下回ると「閉塞性障害」つまり、病的に気管支がせまい状態と判断されます。既に喘息と診断されている患者さんでは、治療前後で「1秒量」の変化を見ることで、気管支がきちんと広がっているかどうかを確認することが出来ます。また思いっきり息を吐いた時に得られる曲線をフローボリューム曲線といいます。喘息ではフローボリューム曲線が下に凸(へこむ)ことが特徴です。
気道抵抗性試験(モストグラフ)
気管支の抵抗=せまさをみる検査です。気管支がせまいと山が高く赤~黒に表示され、気管支が広いと平らで緑~青に表示されます。20~30秒間の間通常通り呼吸を繰り返すだけでよい簡単な検査ですので、大人はもちろん、5~6才のお子さんから行うことが出来ます。
検査結果解釈上の注意点
体質的に気道抵抗が高値となる方がいます。(お子さんや一部の成人など)このため、自覚症状(呼吸苦や喘鳴)、既往歴、呼気NO検査などの所見と併せて判断することが重要です。また気道可逆性試験(気管支拡張薬の吸入前後での変化をみること)や、治療後の経過を追うことで気道抵抗の改善が得られれば気道狭窄の存在を証明することが出来ます。
気管支拡張薬吸入後に気道抵抗が改善(黄色→緑へ変化)しており、潜在的に喘息が疑われる。(CHEST社HPより)
呼気NO検査
呼気NO(FeNO)検査は、気道中のアレルギーを見る検査で、喘息や咳喘息の診断だけでなく、既に喘息と診断された方の炎症コントロールをみる指標としても有用です。検査は10秒間一定の速度で息を吐くことで測定します。
呼気一酸化窒素(FeNO)値の大まかな目安は下記の通りです。(好酸球型)小児喘息の診断には喘鳴があり「35ppb」を超えていることが目安となります。診断時のFeNO値が高値である場合、治療反応性に値は改善するため、治療指標の判断としても有用です。(FeNO値が低値の喘息もありますので解釈に注意が必要です)
ピークフローメーター
ピークフローメーターは、患者さんがご自宅で肺機能を簡便に測定出来る医療機器です。息をどれだけ早く吐き出せるかを見る検査で、「瞬間最大風速」を見ていると考えると分かりやすいかもしれません。肺機能検査で測定される「1秒量」と相関しており、患者さんの気管支のせまさを表しています。患者さん自身で病状を客観的に判断出来るツールとして有用です。
ピークフローメーターでは1日のうちの気道のせまさの変化(日内変動)や治療反応性、呼吸苦と気道のせまさとの関連を見ることができます。肺機能検査は病院でしか行うことが出来ないため、時間経過や自宅での気道の状態を評価出来る点が優れています。
ピークフローメーターの特徴
- 測定がとても簡単である
- 夜や朝方など、いつでも検査できる
- 調子が悪いときも、いつでも検査できる
- 場所を選ばないで、いつでも検査出来る
- 日内変動は気道過敏を表しており、肺機能検査では評価出来ない項目である
- 治療反応性を経時的に見ることが出来る唯一の医療機器である
喘息の治療薬
喘息の治療薬は①増悪時の治療薬、②定期薬の2つに分類されます。
喘息増悪時の治療薬
(1) 気道平滑筋(きどうへいかつきん)の収縮を解除させる
・時間作用型気管支拡張薬(メプチンキッドエアー)
(2) 気道粘膜のむくみ(浮腫:ふしゅ)を解除させる
・ステロイド(即効性を期待する時は経口もしくは点滴薬を使用)
(3) 気道分泌物(痰)の貯留を外に排出させる
・去痰薬(カルボシステイン、アンブロキソール)
・短時間作用型気管支拡張薬(メプチンキッドエアー)
(4) 細菌感染が併発している場合
・抗生剤
短時間作用型気管支拡張薬
即効性あり、20-30分程度効果が期待。呼吸困難時に頓用で使用します。
メプチンキッドエアー | |
---|---|
短時間作用型β2刺激薬(SABA) | |
1回あたり1~2吸入 1日最大8吸入 |
|
副作用)動悸、手の震え |
サルタノールインヘラー | |
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短時間作用型β2刺激薬(SABA) | |
1回あたり1吸入 1日最大4吸入 |
|
副作用)動悸、手の震え |
メプチンユニット(ネブライザー) | |
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短時間作用型β2刺激薬(SABA) | |
1回あたり0.3ml | |
副作用)口喝、眼圧上昇(閉塞隅角緑内障) |
去痰薬
痰の粘調度を下げたり、痰の切れを良くすることで痰を出しやすくする薬です。カルボシステインとアンブロキソールは併用することもできます。
商品名 | ムコダイン | ムコソルバン |
---|---|---|
一般名 | カルボシステイン | アンブロキソール |
内服方法 | 1日3回 | 1日3回 |
効果 | 痰の粘調度を下げる | 痰の切れを良くする |
経口ステロイド
経口ステロイドは呼吸苦があり横になれない、呼吸状態が悪い時など、重度の喘息増悪に限り使用されます。吸入に比べ短期間で気道のアレルギーを改善させ、気道の浮腫(むくみ)を取ることにより、喘息増悪を改善させます。投与する際は「短期間(3~5日間)」の投与が原則です。
商品名 | プレドニン |
---|---|
一般名 | プレドニゾロン |
内服方法 | 1日1回(朝) 体重あたり0.5㎎~1㎎/kg |
効果 | 喘息憎悪を改善させる |
喘息定期治療薬
喘息定期治療薬の目的は、➀気道の炎症を抑えること、②気管支を広げること、の2つに分類されます。
喘息定期治療薬の目的
- 気道炎症を抑えること
・吸入ステロイド(ICS)
・ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)
・テオフィリン徐放薬(SRT) - 気管支を広げること
・長時間作用型β2刺激薬(LABA)
・テオフィリン徐放薬(SRT)
略称 | 薬剤名 | 効果 | 主な副作用 |
---|---|---|---|
ICS | 吸入ステロイド | 炎症を抑える | 嗄声(声枯れ)、口内炎、のどの痛み、口腔内カンジダ症 |
LABA | 長時間作用型 β2刺激薬 |
気管支を広げる | 手の震え、動悸 |
LTRA | ロイコトリエン受容体拮抗薬 | 炎症を抑える 鼻炎を改善させる |
眠気(軽度) |
SRT | テオフィリン徐放製剤 | 炎症を抑える 気管支を広げる |
悪心、動悸、頭痛、不眠 |
吸入薬の種類
吸入薬には大きく分けて、ガスタイプと粉タイプの2つの剤型があります。
ドライパウダー製剤(DPI)・・・「粉タイプ」
ドライパウダー製剤は薬が粉の状態で充填されており、ご自分の力で肺に吸い込むことにより吸入を行います。吸い込む力である「吸気流速」が遅いと十分な効果が得られないため、主に小学生以上の方に推奨としています。
加圧定量噴霧式製剤(pMDI) ・・・「ガスタイプ」
ガスの圧力で霧状の薬液を吸入します。吸気流速が遅い方でも吸入することができます。小さなお子さんでは薬の噴射と薬を吸い込むタイミングを同調させるのが難しいため、スペーサーという吸入補助器具を用いて吸入を行います。
ドライパウダー(DPI)と噴霧式(pMDI)どちらがよい?
「5歳までの乳幼児喘息」
pMDI製剤+スペーサー併用
「6歳以上の学童期喘息」
DPI製剤、pMDI製剤 いずれも使用可
ICS(吸入ステロイド)
ICS:アレルギー性炎症を抑える
当院で良く使用する吸入ステロイドをまとめました。DPI製剤であるフルタイドディスカスが吸入可能なのは学童期以降ですので、5才以下の乳幼児喘息にはpMDI製剤であるオルベスコもしくはフルタイドエアゾールを選択します。
フルタイドディスカス | |
---|---|
50,100μg | |
ドライパウダー(粉タイプ) | |
1日2回 1回1吸入 |
|
カバーを開けて、レバーをカチッとするまで回し吸い込む。 |
オルベスコインヘラー | |
---|---|
100, 200μg | |
pMDI(ガスタイプ) | |
1日1~2回 1回1~2吸入 |
|
ガスタイプの吸入で1日1回吸入が可能。メーターがないので、日付で管理する。 |
フルタイドエアゾール | |
---|---|
50μg | |
pMDI(ガスタイプ) | |
1日2回 |
|
ガスタイプで唯一アルコールを含まない。メーターがないので、日付で管理する。 |
ICS/LABA配合剤
- ICS(吸入ステロイド):アレルギー性炎症を抑える
- LABA(長時間作用型β2刺激薬):気管支を長時間広げる
粉(ドライパウダー)かガスタイプ、吸入回数などから薬剤を選択します。2024年7月より新たな吸入薬「レルベア50」「レルベア100」が使用出来るようになり、様々な選択肢が増えました。
アドエアディスカス | |
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100μg | |
ドライパウダー(粉タイプ) | |
1日2回 1回1吸入 |
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カバーを開けて、レバーをカチッとするまで回し吸い込む。 |
アドエアエアゾール | |
---|---|
50μg | |
pMDI(ガスタイプ) | |
1日2回 |
|
ガスタイプで唯一アルコールを含まない。メーターがないので、日付で管理する。 |
フルティフォームエアゾール | |
---|---|
50μg | |
pMDI(ガスタイプ) | |
1日2回 1回1~2吸入 |
|
ガスタイプで、吸入回数が分かるメーター付き。 |
レルベア50 | |
---|---|
50μg | |
ドライパウダー(粉タイプ) | |
1日1回1吸入 | |
全ての吸入薬の中で最も使い方が簡単。6才~11才に適応。 |
レルベア100 | |
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100μg | |
ドライパウダー(粉タイプ) | |
1日1回1吸入 | |
全ての吸入薬の中で最も使い方が簡単。12才以上に適応。 |
吸入薬の使い方
動画で使い方を確認しましょう
吸入薬は正しい使い方で吸うことにより、はじめて効果を発揮できます。自宅で実薬を使う前に吸入薬の使い方を動画や吸入トレーナーを使用して確認しておきましょう。
吸入後はうがいを行いましょう
吸入ステロイドは口やのどに付着すると口内炎や声がれの原因となります。吸入薬を使用したら必ずうがいを行うか、外出先などでうがいが出来ない場合は吸入後に水を飲みましょう。
吸入補助具(スペーサー)
スペーサーとは、その名の通りスペースを作ることで、ボンベタイプの吸入薬(pMDI)を行うための補助器具です。スペーサーを利用することで得られるメリットをご紹介します。
スペーサーとは、その名の通りスペースを作ることで、ボンベタイプの吸入薬(pMDI)を行うための補助器具です。スペーサーを利用することで得られるメリットをご紹介します。
「押す」「吸う」タイミングが多少ずれても大丈夫
ボンベタイプの吸入を行なう上で難しいのは、「押すタイミング(噴霧)」と「吸入のタイミング」を合わせることです。このスペーサーを使用することにより、タイミングのズレを解消し確実に吸うことが出来ます。
副作用を減らし、吸入効率を向上させる
pMDI製剤は口腔内に吸入薬を噴射させる際、口の壁やのどの奥に当たった薬剤は気管支に届かず付着し、副作用の原因となることがあります。スペーサーを利用することで口やのどに直接当たるのを防ぎ、吸入効率を向上させることが出来ます。
保険適応について
6歳未満の喘息患者でpMDI(ガス)タイプの吸入ステロイド薬を使用する場合、初回のみ保険適応でスペーサーをお出しすることが出来ます。(喘息治療管理料2)
(ご自分で購入する場合は、オンラインで1000円~3000円程度)
スペーサーの使い方(動画)
小児重症喘息に対する生物学的製剤
重症喘息とは
吸入薬や内服薬等の既存治療を最大限に行っても喘息増悪を来たし、時に全身ステロイドが必要となる喘息を「重症喘息」といいます。
重症喘息の問題点
①既存治療で十分なコントロールが得られず、普段の喘息の調子も悪くなるため日常生活に支障が出る。例)咳や痰が出る、息切れがする、夜苦しくて眠れない。
②感冒などをきっかけに喘息が増悪すると、医療機関に定期外受診をする必要がある。
③喘息増悪時の治療「全身(経口)ステロイド」は、症状が改善するが副作用の懸念がある。
④全身(経口)ステロイドは「少量・短期間」でも「蓄積毒性」があり、将来のリスクとなる。
⑤喘息増悪を繰り返すと、肺機能が徐々に低下し、「気道の老化」につながる。
/> ⑥肺機能が低下すると、喘息症状はさらに強くなり、次の増悪が起こりやすくなる。
全身ステロイドと合併症発現リスク
全身ステロイドには蓄積毒性があり、例え少量・短期間であっても繰り返し投与することで将来(10-20年後)、臓器横断的な副作用が起こり、生命予後が悪化したり、生活の質が著しく低下します。
重症喘息の治療選択肢
既存治療によっても喘息のコントロールが得られない場合、増悪時のみステロイドを内服する方法が一般的です。これに対し生物学的製剤は「ぜんそく増悪を抑制」「ぜんそく症状を改善」「生活の質を改善」させ、短期的にも、長期的にも副作用はほぼない治療薬です。
当院で採用している生物学的製剤
当院で採用している生物学的製剤は「ゾレアペン」「ヌーカラ40mgシリンジ」「ヌーカラ100mgペン」「デュピクセント300mgペン」の4種類となります。このうち、6才~11才で使用できるのは「ゾレア」「ヌーカラ40mgシリンジ」、12才から使用できるのが「ヌーカラ100mgペン」「デュピクセント300mgペン」となります。患者さんの状態に併せて、最適な治療薬を推奨いたします。