長引く咳とは
咳は肺や気管支の中に外から入ってきた異物を取り除こうとする防御反応です。例えばかぜにかかった時に咳や痰(たん)が出るのは、体の中に入ったウイルスや細菌を外に追い出すためです。しかし咳そのものがひどくなったり長引いてしまうと、会話中にも咳がでたり、夜も眠れなくなったり、筋肉や骨が痛んだりして痛みのために日常生活に支障を来すこともあります。咳の原因は、感染症や感染以外の原因(アレルギーなど)を含め非常に多岐にわたることが診断を難しくしており、治療を受けているのにも関わらずなかなか治らないことも珍しくありません。そのため長引く咳の治療をするためには、原因を特定することがシンプルですが、最も大切なことです。
咳は様々な場所・原因で起こる
咳は何故起こるのでしょうか。咳は気管支や肺だけでなく、のど、鼻、食道など幅広い臓器に分布する咳のセンサー(末梢咳受容体)が刺激され、神経を介して、脳中枢に刺激が伝わることにより、反射的に起こります。つまり、咳は気管支だけでなく、鼻・喉・胃を含む様々な原因で起こります。
長引く咳の診断ポイント
かぜをひくと咳が出る(感冒後咳嗽)
かぜの原因の多くはウイルス感染(RS、ライノ、アデノ、ヒトメタニューモ、コロナ、インフルエンザなど)を契機に起こります。ウイルス感染により気管支に炎症が起こると、気道粘膜が剥離(はくり)し、気道が過敏になり咳が出ます。気道粘膜は2~3週間程度で修復され、咳が落ち着いてきます。これを感冒後咳嗽といいます。
感冒を契機に出た咳は2~3週間以内にピークを越えます。ところが、喘息や副鼻腔炎などを含む他の原因が併存している場合、2~3週間以内の咳のピークが見られないことがあります。このため咳が続く場合は、2週間以内に咳のピークを越えているかどうかを確認することが大切になります。
繰り返し風邪をひいている
乳幼児の場合、保育園や幼稚園に登園されていることが多いと思います。登園初期に特に多いのが、咳が長引いているように見えても、実は新たな感冒を繰り返しているケースです。そのため、咳が長引いている場合、その間に新しい感染を疑うエピソード(発熱など)がないかを確認することが大切です。
上気道咳症候群(後鼻漏)
気管支から肺を「下気道」、鼻・のど・口を「上気道」といいます。小児と成人では体の大きさが異なるだけでなく、上気道の構造(かたち)が異なります。小児では鼻汁が前(鼻孔)から出ることが多く(鼻水を垂らしている状態)、起きている時には咳が目立ちません。ところが、横になる(臥床)と鼻汁は鼻の奥からのどへの垂れ込みが起こります。これを「後鼻漏(こうびろう)」といいます。後鼻漏は喉を刺激するため咳の原因となりますが、これを「上気道咳症候群」といいます。原因疾患として、感冒による鼻分泌物の増加や副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎などがあります。
咳が悪化する時間帯はいつか?
- 感染症による咳は基本的に1日中(昼夜・寝ている間問わず)起こります。
- 鼻が原因で起こる咳(上気道咳症候群)は臥床時に悪化します。特に寝入りばなと、起床時が多く、就寝時に咳で起きることはあまりありません。
- 喘息(咳喘息含む)による咳は夜間(就寝時)に悪化し、基本的に1日中続きます。走ったり、気温の差や気圧の変化など、気候の変化でも悪化することがあります。
咳喘息/喘息
昼夜を問わず咳が出るが、夜間~早朝にかけて咳のピークがある。
上気道咳症候群(後鼻漏)
数分後毎に悪化する痰がらみの咳が特徴で、就寝中は出ず、起床時に悪化する。
感染症による咳
昼夜問わずに咳が出続ける。
アレルゲン(アトピー素因)の有無
小児喘息をはじめ、小児のアレルギー疾患にはアトピー素因が見られることがほとんどです。既に、アレルギー検査などでほこりやダニなどのアトピー素因が確認されている場合、咳が長引く原因として疑う根拠となります。
小児喘息に対し、主にダニなどの吸入抗原に対するアレルギーを調べるために行います。当院では、お子様に対する侵襲性と調べる項目の必要性を考え、指先から検査を行い、20分以内に結果が判明する「イムノキャップラピッドアレルゲン」をおすすめしています。
(食物抗原が必要な場合などは、通常通りの血液検査が必要です。)
イムノキャップラピッドアレルゲン8
IgE抗体検査は5~10ml程度の血液を必要とするため、血管から採血をする必要があります。また外の検査会社さんに検体を提出する外注検査になりますので、結果も即日お返しすることは出来ません。一方、迅速検査であるイムノキャップラピッドは0.1mlの採血量で検査可能であり、指先から検査が可能で結果も約20分で判明します。特に血管がわかりにくく安静することが難しい小さなお子さん(3才以下)でも検査出来ることが特徴です。検査項目は「スギ」「ダニ」「ブタクサ」「カモガヤ」「ヨモギ」「イヌ」「ネコ」「シラカンバ」の8項目 に限られますが、主に「スギ」や「ダニ」など項目を絞って検査を行うには有用な検査といえます。
検査が難しい乳幼児では「診断的治療」
呼吸機能検査、レントゲン検査、血液検査をはじめ、咳の診療にはいくつかの検査方法がありますが、乳幼児では検査自体を行うことが困難なことがあります。このため、咳が長引く際は、今までの治療経過や薬の効き具合(特に気管支拡張薬)、アトピー素因の有無(ご両親の家族歴含む)、保育園や幼稚園登園などの契機があるか、など多くの情報を必要とします。そして疑わしい病態に対して加療を行い、症状が改善するかどうかを確認する「診断的治療」が必要となることもあります。治療によって症状が改善したかどうかは、診断上とても重要な情報になりますので、次回の悪化に備えて覚えておきましょう。
可能な限り抗生剤を使わないこと
小児の長引く咳で、抗生剤が必要な主な病態は、「溶連菌」「副鼻腔炎(重症例)」「中耳炎」「肺炎」の3つです。副鼻腔炎や中耳炎については、耳鼻科での診察を受けていただき本当に抗生剤が必要な状態かどうかを確認する必要があります。当院では可能な限り抗生剤投与を必要最低限とするため、「炎症反応検査」を用いて、抗生剤投与が必要な感染症かどうかのスクリーニングを行っております。
まとめ
小児の長引く咳は、咳が出始めてからの経過や、両親のアレルギー歴を含むアトピー素因の有無、抗生剤投与が本当に必要な状態かどうかの見極め、検査が難しい場合は、疑われる病態に対する診断的治療が重要になります。当院だけでの診療で完結させるのは難しい場合もあり、耳鼻科の先生方とも連携し、治療を行っていきます。